第18話

 予想はしていたが俺たちの居住区にまで黒枝の成木クラスが出没し始めた。メーダの火魔法で焼却することは容易だが、それだけでは根本的な解決にはならない。ゴウジさんが設置してくれたバリケードも時間稼ぎ以上の働きは出来ない。よって、今日はガチャを引くことにする。


 いつものように液化魔力を口に含み、いつも以上に精神を集中させ、ガチャを回す。強く願うのは植物のスペシャリストだ。なんかこう……いい感じにしてくれる人材求む!


【UC [クリーチャー]暗い森の隠者】


「ワ?ワァ~!」

「……なんだコレ」


 出現したのは、ものすごく小さいマスコット的な何かだ。全身真っ白でほのかに発光するさるぼぼのようとしか表現できないナマモノが元気よく走り回っている。


「ワー♪」

「あ~コラコラそんなウロウロするなって……アッ馬鹿お前そっちは危ないって、おい!」


 俺の一瞬の油断のスキを突き、ヤツは脱兎のごとく駆け出して行ってしまった。よりにもよって怪獣地帯がある方向へ。な~んでピンポイントで今一番ホットな危険地帯に向かっちゃうかなぁ。


 薄情ではあるが、ヤツのことは諦めることにした。碌に情報も交流も無いまま秒で消えてしまった者に対して情を抱けるほど俺は人間が出来ていないんだ。

 無駄になった資源と俺の精神力のことは一旦忘れてもう一度ガチャを回そう。今度はせめてマトモなコミュニケーションが取れるのがいいな。……普通召喚された存在というのは召喚者の言うことを聞くものではないのか?敵対的だったり制御不能なヤツが多すぎるから頼むぞ、本当に。


【◇◇ 《ヘヴン・バーガー南14区店従業員 屠殺ポジション》アーリ】


「うぅっ、気分悪……え、何処スかここ?もしかして店の次元口ゲートぶっ壊れた?」


 次に出現したのは、鳥か何かの翼がモチーフのロゴが印刷されたエプロンを身に着けた女の子だった。ボサボサの長い茶髪を雑に後ろで纏めている。全身返り血まみれなのと身の丈程もある巨大な包丁を背負っていることを除けば、ごく普通のファストフード店の従業員といった格好だ。


「やぁ、どうも初めまして」

「あ、どもっス……ってうわぁ!?」


 なんだなんだ人を見るなり叫びだして。もしかして俺の顔に何か付いてたか?


「いやっ、付いてるってか顔面血まみれじゃないスかオッサン!大丈夫っスか!?」


 血痕だらけの君に言われたくはないなぁ、という言葉を寸前で呑み込みつつ顔に手をやってみる。指先にまとわりつくねっとりとした生暖かさ。


「……は?」


 滴り落ちる赤黒い液体は間違いなく俺の血だ。なんて言ってる場合ではない!まさか脳の血管が切れたとかじゃないだろうな。人から言われて初めて気付くとか相当ヤバいぞ。

 突然こんなことになった原因は……まぁ間違いなくガチャだろうな。可能性を選定し、絞り込むという行為は俺の予想以上に負担がかかるらしい。ちくしょう、ガチャの切り替えすらマトモにさせてはくれないのか。このガチャを作ったヤツはよっぽどカオス極まる闇鍋ガチャを引かせたいようだ。

 あっ、マズい意識が朦朧と……


「ガクッ」

「……いきなりわけわかんない場所に飛ばされるわ、目の前で血だらけのオッサンがぶっ倒れるわ、今日は厄日みたいっスね。誰かーッ!誰かいないっスかーッ!?人が倒れてまーす!」


 ◇◇◇


 アーリさんによって拠点に担ぎ込まれた俺は治療を受け、一命を取り留めた。実は結構危険な状態だったらしい。恐ろしや……

 意識を取り戻した俺は早速皆からこってり絞られた。これは完全に自業自得だから甘んじて受け入れよう。俺はもう二度とガチャのソート機能なんて使わねぇぞ。なんで自分の能力なのに文字通りの地雷機能が実装されてるんだ。


「えっと、それで……」

「あ、大体のことはもう聞いたっス」


 なんだ、もう説明は受けたのか。なら話が早いな。


「いや~まさか人が暮らしてる異世界があるなんて驚きっスよ」

「その口振りだと異世界の存在そのものは知ってるのか?」

「知ってるも何も、今やほとんどの団体とか企業が色んな異世界に繋がる次元口ゲートを持ってるっス。で、そこから採れる素材で色んな技術が発達して来たって感じっス」

「なるほどなぁ」


 複数の世界と繋がった世界か。俺には想像もできないな。


「んじゃ改めて、ウチの名前はアーリって言うっス。もしぶっ殺してほしいバケモノがいたらウチに任せるっスよ!こー見えて腕っぷしには結構自信があるっス」

「それは頼もしい……ん?」


 もしかして彼女の世界では頻繁にバケモノと言える存在と戦う必要があるということか?


「ウチがバイトしてるとこだと、羽と輪っかのあるバケモノをぶっ殺してハンバーガーとかに加工してたっス。で、ウチはそのバケモノぶっ殺し係だったんスよ」

「な、中々刺激的な世界に住んでたんだな」


 アルバイトにバケモノ殺しをさせるファストフード店とか嫌すぎる。絶対他にも闇深案件あるだろ。こっちにはそういうの無くて良かった~。無いよね?


「それで、そのぅ……なんかウチにもやれることとか、無いっスか?や、ウチに出来ることは暴れる位しかないんスけど」

「んーそうだなぁ。あ、じゃあ外にいるでっかい黒い木を倒してきてくれないか?自力で移動したり攻撃したりする植物モンスターなんだけど……」

「わかったっス!ソイツを全部ぶっ殺してくればいいんスね!」

「えっあっちょっと待っ……む、無理だけはするなよー!」


 い、行ってしまった……まだ説明とか終わってないのに……なんだか今日はこんなのばっかりだな?これで謎の隠者ちゃんみたいに行方不明にでもなったら流石にここの風水を見直す必要があるぞ。


「おーい、生きとるかー?……さっき新入りがすごい勢いで向こうに走って行ったが何かあったのか?」

「あぁリリアン。ちょっとな……コミュニケーションの難しさに思いを馳せていたんだ」

「???」

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