第10話

『鬼ハ何処ダ、何処ニ居ル』

『一族郎党皆殺シ二シテクレヨウ』

『隠レテモ無駄ダ!我ラノ眼カラハ逃レラレヌゾ!』


「うおおおお逃げろおおおお!!!」

「なんかすごい怖いこと言っとるぞアイツ!鬼って誰なんじゃ!?」


 触っただけでアウトな、そんな酷い初見殺しトラップが俺の能力ガチャから出てくるとか予想できるわけないだろうが!クソっ、これからガチャを引く時は鎮圧要員としてメーダが傍にいる時でないと危険すぎる。一人じゃおちおちガチャも引けないなんて、涙が出てくるよ。

 デクノボーを侵食した怨念の主、アイツもアイツで何なんだよ。鬼がどうたら喚いているが、この場で一番鬼っぽいのはどう考えてもお前の方だろうが。今まで生きてきて鏡を見たことが無いのか?

 挨拶代わりに数体のデクノボーたちを一瞬で虐殺したその怪物は、当然の如く殺意の矛先を俺たち二人に向けた。オンボロ屋敷の中で暴れられても困るので、取り敢えず外に誘導することにした。


「メーダは今療養中だから……そういやベロスの奴は今どこにいるんだ?」

「ベロちゃんならどっかで遊んどるじゃろ、多分」


 フリーダムなワンコだなオイ!別に自由を満喫するのは構わんが、お前の大好きなご主人様リリアンのピンチにくらい助けに来てくれてもよくないか?


 俺たちを亡き者にしようと迫るその怪物は、全体的なシルエットは筋骨隆々の人型だが、それを構成するパーツは人間のものではなかった。毛むくじゃらの腕、逆関節の脚、巨大な翼。頭部と尻尾は犬、猿、雉のものが計三つ生えている。

 この怨念の正体は十中八九桃太郎の三匹のお供だろう。台詞から考えるに、鬼ヶ島で鬼を全滅させてしまった所為で倒すべきを失い、存在意義を喪失し闇堕ちしたというところか。鬼を求める彼らの念が込められた刀に鬼の銘が与えられる皮肉よ。


「はぁっ、はぁっ、さっきから魔法で攻撃しとるが、全然効いとる気がせんのじゃが!?」

「ぜぇ、ひぃ、となると、何かしらのギミックで、倒すなりなんなり、しなきゃいけねぇのか、かひゅ」


 筋肉痛が癒えないまま全力疾走しているので早くも体力の限界が迫って来た。魔力コソ泥作戦の時は火事場の馬鹿力で全てを誤魔化してきたが、元々俺はそこまで体力がある方ではないのだ。リリアンの方も昨日の疲労が響いているのか、走る速度が落ちてきている。


『『『犬ノ俊足、猿ノ剛腕、雉ノ翼』』』

『『『我ラ三匹ガ力ヲ合ワセレバ、向カウトコロ敵ハ無シ!』』』


 なるほど、三つの力を物理的に合わせた結果、こんな怪物に成り果ててしまったということか。なんて呑気に分析している場合じゃない。

 俺たちは走る速度が落ちる一方だと言うのに、奴の方は逆にどんどんスピードを上げてきている。このままでは俺たちは二人仲良く地面の染みと化してしまう。このまま何もなければ、だが。


「ゴガアアアアアッ!!」

『何奴……ッ!?』

「ベロちゃん!」

「ったくおせぇぞワンコロ!」


 怪物以上の猛スピードで疾走する四つ足が、思い切りタックルをぶちかます!大きくバランスを崩した怪物と向き合うのは、最近ますますフリーダムさに磨きがかかるベロスくんだ。フラフラとその辺をほっつき歩いていたようだが、流石にこの距離になると異変を察して飛んできてくれた。なんだかんだ言いつつも、コイツも頼れる仲間の一員なのである。


「ベロちゃんが来てくれたから、一先ずは安心じゃな」

「ああ、だがスピードはともかくパワーはあっちの方が圧倒的に上だ。出来るだけ早く対策を練らなきゃダメだ」


 とは言っても何をすれば正解なのかさっぱり分からない。が、少なくとも適当にその辺の何かを「これがあなたの探す鬼です」と差し出すのは確実に不正解だろう。


「そもそも彼奴が探しとるらしい鬼?とやらは何者なのじゃ?」

「定義が色々あって一概にコレだとは言えないんだが、今回に限って言えば力が強くて悪事を働く化け物、と認識しておけばいい」

「じゃあ彼奴のお眼鏡にかなうような化け物に会わせてやればいいのか?とりあえず例の蚯蚓どもの巣窟にでも放り込んでくるかの?」

「それは色んな意味で現実的じゃないな……奴のルーツ的に、奴が探し求める鬼はもう存在しないだろう。全部アイツらが退治しちゃったからな」

「存在しないものを探しとるんじゃ、わらわたちじゃどうしようもないぞ!」


 そうなのだ。既に奴の目的は存在しない。故に別の何かで代替してなんとか満足してもらうしか方法が……いや、待てよ?


「前言撤回だ。奴が求めてやまない鬼は存在する」

「なんと!」


 鬼を殺し、鬼を求め、そして鬼へと墜ちた畜生。お前が探してる鬼は、お前自身だ。

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