第9話
爆走するベロスの背中で揺られること数十分、俺たちは無事に屋敷に帰ってくることが出来た。本音を言えば今すぐにでも泥のように眠りこけたいところだが、まずはメーダの治療が先だ。
魔獣形態(俺が勝手にそう名付けただけで正確な表記は知らない)に変身し、その身を挺して俺たちを守ってくれたメーダは見るも無残な姿だった。人間であれば確実に死んでいるレベルの重傷を負った彼は、それでも生きていた。
急いで彼を比較的綺麗な空き部屋に担ぎ込み、いざ治療せんとしたところではたと気付いた。
「なぁ、悪魔の傷ってどうやって治せばいいと思う?」
「え、えーと……回復魔法でどうにかならんかかのう?」
「ゲ……ンゲ……」
肝心の治療方法が分からないという大ポカをやらかした俺たちに、身振り手振りを交えてメーダが一生懸命伝えてくれたことを解読すると、どうやら彼ら悪魔の一族は魔力さえあればどんな傷も治ってしまうらしい。魔力って便利だなぁと感じつつ、早速採れたてほやほやのものを渡してあげた。あとは一晩安静にすれば完全復活するそうだ。悪魔ってすごいなあ。しっかり休んで元気になってくれ。
「それで、頑張って分捕ってきた戦利品じゃが」
「最終的に手元に残ったのが、1Lの容器で六個分か。だいぶ少ないが、全く無いよりはマシだな」
俺とリリアンで山分けすると、ガチャが30連引けるのか。流石に30連回せば一人くらいはレアなキャラが来てくれるか?どうだろう、30回は割と試行回数としては少ないぞ。
いや、そういうことを考えるのは明日にしよう。今は……
「疲れたなぁ……」
「疲れたのぅ……」
はあぁ、と二人そろって大きくため息をつく。今日の体験はいささか壮絶すぎた。軽く水浴びしてから寝よう。
ちなみにベロスのやつはいつの間にか腹丸出しのまま庭で寝てた。なんて無防備な……
◇◇◇
時間は飛んで翌日の朝。空は晴れ渡り、虫は元気に鳴いている。清々しい気分だ。こんな日にやることと言えば、そう、皆さんご存じ。
「おはようガチャの時間だ!」
「朝から元気じゃのー」
俺は元気だぜ。えげつない筋肉痛と全身の切り傷擦り傷のお陰で滅茶滅茶痛い思いをしているが俺は元気だぜ。
いつもの手作りネズミスープと、倉庫にしまってあった謎の瓶詰ペーストで腹ごしらえを済ませた俺に隙は無い。当然ドリンクは新鮮な液化魔力である。そろそろ食糧事情を改善してくれるお方に来ていただきたいぜ!もしくは高レアリティ!
「大いなるガチャ神よ、俺にご加護を!」
「奇妙な神を信仰しておるんじゃな」
本気かボケか判断がつかない彼女の呟きをスルーしつつ、俺は精神を集中させる。二回目だということもあり、今回はかなりスムーズに
ガチャの結果は以下の通りだ。
【☆☆ 海賊のカトラス】
【HN ボーンソード】
【★★ 強化用ナノマシン(中)】
【[家具]くまさんテーブル】
【N+ 兵士の剣】
【☆☆ 戦士の剣】
【ノーマルレア [腕パーツ]メディックフィクサー】
【N+ 兵士の盾】
【C 速さの指輪】
【☆☆☆ 妖刀『暗鬼』】
「神は死んだ!」
「信仰を捨てるのが早すぎる!?」
チクショウ!お前はいつもそうだ。次こそは、今度こそはと回したガチャで爆死をする。
「誰もお前を愛さない」
「一体何がそんなに気に入らんのじゃ?ほれほれ、そういじけておらんと。楽しい時間が勿体ないぞ」
楽しそうなリリアンに免じて神を許すことにした。これがゲームならスクリーンショットの一つでもSNSにアップしたいくらいの大爆死だが、ここは現実。レアリティが低いからと言って弱いとは限らない。メーダがいい例だろう。彼がいなければ今頃俺たちは全員あの化け物蚯蚓の腹の中だった。
ということでガチャから出てきた品々を検めていこう。だが大部分の、特に面白みのない
【★★ 強化用ナノマシン(中)】
「どうやらこの容器の中身は進化素材のようじゃぞ。ベロちゃんに使った爪と似た気配がするのじゃ」
「強化用って名前に付いてるもんな。これは分かりやすい方だな」
見た目は真っ白な500mLペットボトルに詰められた銀色の液体。中ということは小や大もあるのだろうか。よくSFモノの作品でお世話になるナノマシン、一体どんな”進化”を施してくれるのか楽しみだ。
【[家具]くまさんテーブル】
「なんだか可愛い絵が描いてあるのう」
「……リリアン。これいる?」
「欲しい!」
普段はマッドサイエンティストの研究室のような部屋で暮らしている彼女にも、年頃の少女らしい感性が備わっていたようだ。子供向けにデフォルメされた可愛らしいクマを象った小さなテーブルは、めでたく彼女の私物となった。倉庫で埃を被る運命から逃れられてよかったな。
【ノーマルレア [腕パーツ]メディックフィクサー】
「白い箱がくっついた……籠手?鎧?にしては腕を入れれるような構造になっとらんようじゃが」
「これは多分、ロボットかなんかの腕だな」
「ろぼっと?」
「あー……この世界にゴーレムはあるか?そいつの親戚みたいなもんだ」
白い装甲に赤い注射器マーク、そして名前から察するにこれは医療器具を備えたロボットのパーツなのだろう。腕だけで出てきたということは他のパーツも集めろということか。気の遠くなるような話だ。
ちなみに前腕部にマウントされている
【☆☆☆ 妖刀『暗鬼』】
「俺にはこう、なんだか邪悪なオーラ的なものが漂っているように見えるんだけど」
「あながち間違ってはおらんぞ。この剣、途轍もない怨念が宿っておる。迂闊に触らん方がよい」
唯一レア物だと思われるこの日本刀、どう考えても厄ネタの気配しかしない。刀身が光も反射しないほどドス黒い時点で不吉なのに、カテゴリーが妖刀、銘が暗鬼。うん、絶対握った者に災いをもたらす系のあれだ。そうに違いない。
こんな見え見えの危険物は封印するに限ると、体のいい使い捨てであるデクノボーに片付けさせようとした。それは間違った選択だった。
「……!……!」
言葉も話さず、まともな感覚器官もなく、感情も存在しないはずのデクノボーが、刀を手に持った瞬間まるで全身に激痛が走ったかのようにのたうち始めた。
「お、おい。なんかコレやべぇぞ大丈夫なのか?」
「まさか、物理的に干渉してくるほど強い怨念じゃったとは……精神を持たないデクノボーが、怨念の宿主にされておる」
ガクガクと痙攣を続けるデクノボーに黒い刀身から噴き出す暗黒の靄がどんどん吸収されていく。靄が吸い込まれるにつれて、デクノボーの身体が全く別の何かへと変貌していく。
めきり、ばきり、ぐちゃり。強制的に肉体を組み替えられる音が数分の間響き渡る。存在そのものを塗り潰してしまうほどの強い思念が、デクノボーという空っぽの器に自らを満たしてゆく。自らにふさわしいように器を作り変える。
最終的にそこに立っていたのは、身の丈2mは超えた、まさしく”鬼”のような怪物だった。
『『『鬼ハ、何処ダ』』』
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