第6話

「今日は一緒に帰るから。」


放課後、下駄箱で靴を履き替えようとしていた義清は、背後から声をかけられた。振り返ると、佳穂が鞄を持って立っていた。


「……どうして?」


その問いに佳穂は返事をせず、黙って義清を見つめていた。


「怪我は大丈夫なの?」


ひとしきり確認してもなお足りないのか、佳穂は質問を返した。


「どこも折れてなさそうだったのは佳穂ちゃんも確認してくれたでしょ。打撲と切り傷の痛みくらいは二日もあれば引くよ。」


「そう……。」彼女は持っていた靴を履き、背中の痛みからかもたもたとしている義清の方を向き直って言った。


「義清君がまた無茶をしないように、今日は私が見張るの。」


「見張るって、そんな親みたいな……。」


義清はなぜ彼女がこのような宣言をしたのかが全くわからず、ただただ困惑していた。よほど先週の行動が気に食わなかったのだろうか。


「それに、万が一この前みたいに変な奴らに会ったらどうするの?」


彼女はすぐに答えようとして、返答に詰まった。だが、しばらく目を伏せた後、彼女は顔を上げた。何かを決心したようだった。


「その時は、私がやる。」


ばかなことを、と一笑することはできなかった。義清だけでは解決できない問題があることは、先週のことで重々承知していた。それでも、彼女の申し出がばからしいことは、あまりにも明らかだった。


「お前も落ちぶれたもんだな、同い年の女子に心配されるなんて。」


正和が茶々を入れた。


「お前もふざけてないでなんか言ってやってくれよ。」


「足手まといにだけはなるなよ。」


あるいは脅すように言った正和の言葉も、佳穂を思いとどまらせることはできないようだった。正和はもう何も言うまいといった様子で歩きだしてしまったので、義清もそれに続いた。佳穂は無言で後ろを歩き始めた。

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