第2話

「しっかし、今日は本当に暑いな。義清、喉乾かないか?」


「ああ。このままじゃ映画館に着く前にぶっ倒れちまいそうだ。」


そういうと、義清は辺りを見回して、遠くに小さく見えるコンビニを指さした。


「正和、あそこのコンビニでなんか買おう。」


「あれが蜃気楼でなければな。」


正和は愚痴った。一刻も早くエアコンの効いた室内に避難したい一心で、彼らは急ぎ足にコンビニへと向かった。しかしこの行動は、彼らを一層苦しめることになった。のんびり歩いていただけでも肌に浮き出ていた汗は今や滝のように流れ落ち、それらは衣服に吸われて泥のように体に不快感と重量感をまとわりつかせた。コンビニを前にする頃には、二人の歩く速度は亀と同じかそれ以下まで落ちていた。


入り口を前にして、ふと義清は立ち止った。


「どうしたっていうんだ。後ろがつかえてるんだから早く入ってくれよ。」


急かすような声が後ろから飛んできた。


「いや、そうしたいのは山々なんだが……。」


扉の奥には少女が立っていて、今にもドアを開けようと両手をかけていた。にもかかわらず、どれだけ待っても、彼女は一向にドアを開けない。


「彼女は何をやっているんだ?」義清は正和に問いかけた。


「まさか俺たちを中に入れない気か? この炎天下で? 正気とは思えないな。……ほら、後ろの奴も苛立ってきてるぞ。義清、無理やりにでも開けて事情を聞いてみたらどうだ? もちろん、けがはさせないようにだがな。」


だが義清は、正和以上にこの現状に違和感を覚えていた。ドア一枚を隔てて、少女はこちらを見つめている。何かにおびえて焦っているような、そんな目をしているように感じた。その後ろには、ジュースをいくつか持った男が、少女がドアを開けるのを待っている。それでも彼女がドアを開けないのは、一体なぜなのだろう? どうしても人を中に入れたくないのか、あるいは……。


ついに、中にいた男性がしびれを切らし、少女を押しのけてドアを開けた。倒れ込んだ少女のもとへ駆け寄ろうとして、


「つかまえて!」


彼女の、おそらく精一杯の大声を聞いて我に返った。振り向くと、先程コンビニを出た男は走り出していた。だが、まだそこまで距離は離れていない。


「正和、この子を頼む!」そう言い残して義清は男を追うため全力で走った。灼熱の太陽がそれを邪魔したが、熱が体に届き切る前に駆け抜けた。


十秒、いや二十秒ほど走り続けて、ついに男のすぐ後ろに追いついた。義清は体をかがめて、男の脚に向かって飛びついた。男は鉄板のように熱せられたコンクリートに倒れ込み、持っていたペットボトルをばら撒いた。再び逃げることがないよう男の上に馬乗りになったとき、ふと、義清は男の腹部に不自然な厚みと硬さを感じた。服の下をまさぐると、そこからはコンビニで売っていたと思われる雑誌が現れた。


「そうか、だから彼女は……。」


突如として、男は抵抗の意志を示した。


「おい、暴れるな!」


「離せ! なんだってんだよ、たかが雑誌の一つや二つぐらいで! どうせ誰も買わねぇんだから、俺がもらっても変わりゃしねぇだろ!」


「確かに変わらないだろうさ。だがな!」義清は男の首を抑えながら叫んだ。


「悪事を一つ許容すれば、次はそこが原点になっちまう。このままじゃお前はマイナスに落ちていく一方だ。お前が自分じゃ戻れないっていうんなら、俺が無理やりにでも本当の原点まで連れ戻してやる。心配すんな、お前の罪はまだ償える。まだ、戻れるんだ。」


男は抵抗をやめた。ひとしきり暴れて、逃げられないことを悟ったのだろうか。

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