マンパワー

 こう暑いと、ふと思うことが有る。


 正に今、自分が災害に見舞われたら? と。


 今年の梅雨も各地での大雨がもたらした被害は計り知れない。その渦中に自分が居れば何ができただろう? 何ができなかっただろう? 何もしなかったのか? などと考えてしまう。


 過去に一種のターニングポイントとなる激甚災害で被災して以降、ありとあらゆる災害に敏感になるようになった。最近では災害の定義も広くなって、交通渋滞がもたらす影響も災害の範疇に入るらしい。


 大雨や地震だけが災害ではない。


 近年ではネットありきで存在するコンテンツや産業がある。ゆえに、ネット回線の不具合が規模が大きければそれも情報災害を引き起こすだろう。


 もっと身近に考えれば、停電は人災かもしれないが、停電することで引き起こされる波及的な不都合や不便も災害と言える。冷房が使えない真夏の真昼は想像しただけで肝が冷える。


 それまで、防災グッズの三種の神器といえば『ラジオ』『水』『携帯電話』だったがそこへ『モバイルバッテリー』や『電池と充電器』が付け加えられる勢いだ。


 我々はネットと電気の無い世界では生きていけないほどに慣れ親しんでしまった。生まれてから既にネットが存在している世代がこれからの社会や世界を担っていく。


 当たり前に与えられたネット環境を水道の水やガスコンロの火のように同列に語っているのは当たり前。


 こんな時ほど、旧い世代は「昔はよかった」というが、それは世間というより世界規模で『今と違った』だけの話だ。今には今の若者の生き方が有る。生きている環境が有る。旧い世代に於かれましては経験談でマウントを取るより、経験談を聴きたくなるような魅力的な歳の取り方を見せてほしいと願う。それが共存の第一歩だろう。


 なぜ共存の話になるかというと、これまた防災に二次的三次的に関係が有るからだ。


 世代ごとに隔絶している社会では避難所に逃げても、集団生活が形成される前に破綻するからだ。ただでさえ災害性ストレスに悩まされているのに更に人付き合いで難儀する。


 それを見越して幾つかの自治体は隣組や町内会でのイベントを盛り上げて普段から地域住民の結束を高めようと試みている。公的な金を投じれば全てが解決するというのは、先ずはコミュニティを維持してから。さもなくば今度は使途不明の金や不透明な金の流れ云々で揉めることになる。


 避難場所や防災グッズや非常備蓄も大切だが、普段から近隣住民とのコミュニケーションも決して馬鹿にはできない。


 その昔、歳よりは何かと躾に五月蝿かった。大方の場合、これには理由があり、老人たちが若かった時代、礼儀のなっていない人間は誰にも相手にされず、手助けもされず、独りで寂しく亡くなるか知らぬ間に村から消えているケースが多かった。……で、普段から挨拶ができている人間はそれだけで顔を覚えられており、村の集会に居ないと心配されたり気にかけたりされて、家をたずねられ、安否確認された。


 個人の自由とプライバシーだけが大声で主張される今からすれば馬鹿げているが、当時はこれこそが地域ぐるみの連携の基礎となっていた。


 村イコール一つのコミュニティ。


 これを維持して存続させるには隣人同士の付き合いは必須だった時代の名残なのだ。


 時代は流れて現在。

 指先一つで誰とでも仲良くなれて誰であっても縁が切れる時代。そんな形骸化したであろう隣近所の付き合いなどバカバカしいと思うだろう。


 考えてみてほしい。自分は一人でも生きていけると豪語している人間でも、公園の片隅にある公衆便所の個室で盛大に用を足した後、尻拭き紙が無いと誰かが公衆便所に入ってくるまで待つしかない。スマホで誰かを呼ぶしかない。


 一人では生きていけない。


 それが社会で世間でひいては世界だ。


 防災減災や被災時の過ごし方や被災後の復興を円滑に進めるには、いささか損得勘定な表現になるが、マンパワーが大事で、マンパワーは普段からの付き合いで自分の顔と名前を覚えてもらうところから始まる。


 土壇場で自分の命を救うのはナイフでもライトでもない。知恵と判断力だけではまだ不安。遠くの親類より近所の他人が必要だ。……いささか損得勘定な表現になるが。



 間違えても人間関係についてはミニマリスト精神を発揮してはいけない。 

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