歩く。暑くても。

 夏。暑い。


 幾ら散策好きの私でもこの殺人的暑さは参る。何年か前に散策中に熱中症で倒れて以来、夏の暑さは忌避するようになった。起床して新聞を読んで、本日の最高気温を見て辟易する。


 私がまだ小学生だった頃は夏といえど三十度を超える日は数えるほどしかなく、ほとんど毎日扇風機で過ごしていた。更に日中が暑いと夕方付近になると夕立が降って打ち水と同じ効果で涼しくなる。


 ……今はもうそんな思い出は記憶の彼方になりつつある。


 少し前まで、こんなに暑いと普段は自室で三十分以上のエアジョギングをしていたが、体感的に負荷が違うので不完全燃焼気味だった。


 散策ならば歩きつつ、絵を描きつつ、遠くを眺めつつなので楽しい頭の体操もできるので夏の風景も楽しみたいが……近年の暑さは自宅内で居ても熱中症になり、エアコンは事実上の生命維持装置と化した。


 そこで、ウォーキングの考え方を少し変えた。

 散策ではない。ウォーキングだ。


 長時間がっつり歩くウォーキングではなく、短時間だけ集中する。


 十分歩いて十分かけて帰宅する。

 それだけ。


 膝を上げて肘を振って、呼吸を整えて、【そういうスポーツ】をしているつもりで歩く。


 屋外が暑いので、水筒と塩飴は必ず携行。


 たったの二十分。

 その二十分に全力を注ぐ。


 すると人間の脳は個人差はあるが、考えることに飽きてくる。只管呼吸を一定に保ち、両手両足を規則正しく動かしていると、幸福ホルモンのセロトニンが分泌されて『何故だか分からないが頭が気持ちよくなる』感じになる。


 私の場合、炎天下で二十分のウォーキングは今のところ丁度いい負荷だ。


 世間では帰宅してシャワーを浴びて爽快感を得られるほどの負荷が最適だと言われている。帰宅して疲労が勝ってへたり込んだり、激しいハンガーノックに襲われるのなら運動量を見直した方がいい。


 セロトニンと言えばうつ病の予防や軽減、イメージの増幅、思考の整理、ポジティブ思考などのエネルギーとも言われており、うつ病の運動療法でも頻繁に用いられる。うつ病でなくとも、日頃のストレス解消や運動不足解消に最適で、特別な訓練も装備も要らない。虚弱体質の改善、糖尿病や高血圧などの軽減や予防にも有用だ。日光に当たることで体内時計が調整されるので睡眠障害の改善にもなる。


 各種、検証方法があるが、ウォーキングが脂肪を燃焼させてダイエットに効果が出る時間は二十分を経過してからだと言われている。様々な病巣を抱えた、体重が気になる年齢としてはウォーキングは【歩く薬】だと認識している。


 勿論、無理はしない。自分で決めた時間を絶対のノルマにしてしまうと楽しくなくなる。無理なら潔く引き返す。無理だと思うなら本日は短い距離で我慢する。セロトニン不足を解消したいのなら、午前中の太陽光を浴びているだけでいいのだから、家の軒先やベランダで大きく膝を上げて肘を振って足踏みでもいい。私も体調が今一つの時や気分が乗らない時はそうしている。


 健康になるため、健康を維持するための運動で体調不良を招いたのでは本末転倒だ。無理は禁物。


 涼しくなる季節まで暫くウォーキングで運動不足を解消しようと思う。

 アスリートになるのではないのだから、状況に応じて運動方法を変えるのも良いのではないだろうか?


 健康は損なってから初めて価値を知る。私もこんなことになるのなら……と、ふと昔の自分を殴りたい衝動が湧くが、今更な事なので、それはそれこれはこれで割り切って、今にクローズアップして今を大事に過ごそうと思う。

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