抗うつ剤、創作意欲、薬剤性肥満。
個人的には心の病に完治はないと思っている。苦手なものを克服するのみだ。
三十年近く昔に心を患い、抗うつ剤の世話になった。私自身は精神科や心療内科に対して別段のフィルターは無かったが、世間はまだ心の病に対して理解が無く、『心の病に罹患した=精神異常者になった』と偏見を持たれた。
誰も助けてくれないから私は保険証と財布を持って精神科に転げ込んだ。精神科に来ることや心の薬を飲むのは絶望ではないしこの世の地獄ではない。治るために、快復するために頼るから真っ当な医療機関に意志でもって来たのだ。
そして本題。
抗うつ剤を飲むと意欲が低下する。
当時、既に文字書きとして執筆に勤しんでいたのだが、抗うつ剤を飲むとリビドー減少という副作用が発現する。
意欲の低下。性欲の低下。
脳内に作品を書けるだけの知識とネタと技術が詰まっているのは知覚しているのに、何も書けないのだ。
頭の中の整理されていた沢山のおもちゃ箱をいきなり全部ひっくり返されたのに似たイメージ。
更に不思議なのは、急に書けなくなったとパニックに陥るのは最初だけで、抗うつ剤の作用が安定してくると、「まあ、それはそれで……」と作品が書けなくなった事実すらどうでも良くなる。
心が無というより、凪いでいる水面なのだ。
何も情緒をかき乱すものがない。
あらゆる不満や脳内を占拠する空想や妄想が消え失せたのだから、『創作しなければ』『創作したい』『創作こそ全て』という自分のアイデンティティが霧のように無くなったので、『焦る理由』すら無くなった。
心身両方の男性器が役に立たない状況でも、「今はどうでもいい……」と何処か無関心。
摂取する創作コンテンツに対する感想も何処かフラットでドライ。
覚えているが特に思うところが見つからないのだ。読書ノートが書けないだけではなく、思いの丈を吐き出すためのモーニングページすら内容が薄い。語彙力が低い。
こんなことなら抗うつ剤なんか飲むのではなかった! と怒りを覚える事すら無い。
更に薬剤性肥満。抗うつ剤を飲むとホルモンバランスが崩れて糖分の代謝が悪くなり、短期間であり得ないほど太る。
主治医に言わせればそれ迄の悩みでカロリーを消費していたが、薬を飲むことにより悩み事がなくなり、また、今迄と同じ分量を食べて運動しないのだから太って当然だとのことだったが、この辺りの『薬で太る』話は今の医学でも解明されていない部分があるらしい。
まあ、理由は如何あれ、太るのは感情として嫌なものだ。
それから数年は抗うつ剤との戦い……薬剤性肥満との戦いだった。
必死で筋トレや有酸素運動に励んだ。
紆余曲折を端折れば、創作意欲も性欲も戻ってきた。日中に陽光を浴びてウオーキングをしていたお陰で知らぬ間にセロトニンが正常に分泌されるようになり、殆ど正常に思考が働くようになっていたのだ。
今は医師の指導の元行っていた断薬が目前だ。
何より、体脂肪率とBMIが正常の範囲内で、ここ十年以上前から健康診断はオールクリアを維持している。
今だから怖いと思うが、初めて抗うつ剤の世話になってから創作家として何も感じなくなるのは本当に恐怖なのにそれすらも自覚できないのは恐ろしい話だった。
世間一般的に言われるように最後に上手くオチればそれで良し。私は今は精神医学とは違う病巣で休筆中だが、いつか必ず執筆できると信じている。『漁師は漁に出られない時は網を繕う』というように、いつか執筆できるようになった時に備えて、脳内のデータを更新したり、新しいデータをインプットしたいと思いながら様々なコンテンツを楽しんでいる。
人間、何事も、『終わってからが長い』のだ。焦らずゆっくりと、自分に言い聞かせて行こう。
抗うつ剤を飲む病を発病しても、そこで絶望している暇はない。如何に楽しみながら克服し復帰するかを考え実行する、非常に遣り甲斐のある仕事が待っているぞ。
その前に今は存分に休もうじゃないか。
個人差は勿論あるが、まあ、ぼちぼち行こう。
頑張らなきゃいけない、やらなきゃいけないという考え方は一旦忘れましょうや。
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