アプリ決済が始まりだった

 恥ずかしながら、私が自覚するほどに行動範囲が広がったのはスマホに決済アプリをDLしてからだ。それまでは現金で支払う事が安全だと信じて疑わなかった。


 新しい物を忌避してしまう類の人間だった。


そんな私がふとした切っ掛けでスマホに決済アプリをDLし、試しにどれくらい有用なのか試してみた。


 実感では雀の涙ほども特典に与れない場合が多いが、レジ前であたふたと鞄を探って財布を取り出す手間が大幅に減っただけでもQOLの向上を感じた。(私は手帳型のスマホカバーを使っているので、カード類もカバーのポケットに差している)


 ある日気がついた。毎週、毎月の初めには配布されるクーポンを集めて実際に店舗で使うことに娯楽のようなものを見出していた。


 私は元々、懐事情を考えすぎる人間なので知らぬものには一銭も出さない主義だ。その私があろうことか、支払うという行動自体に楽しみを覚えていた。


 浪費癖とは明らかに違う。家計簿を見ても出納は誤差の範囲内で済んでいる。


 『支払う』ことが純粋に楽しい。


 ……で、気が付けばスマホだけを持って外出し、諸用を済ませることが楽しくなり、連鎖的に外出が楽しくなってきた。インドア人間の私の性分からは考えられない化学変化だった。


 そんな快楽的な万能感に浸っていた毎日だったが、とある局面で、アプリ決済が使えない事態に見舞われた! 即座にポケットを探るも紙幣も貨幣も、そもそも財布も持っていない! ……まだまだ、アプリ決済は万能ではなかった……。


 それからというもの、百円ショップで買ったコインケースに大小の小銭を入れて出歩くようになった。


 馬鹿馬鹿しいが、これが、私が外出するための行動教義になったのだ。


 ケチに生きてきた分、損をしていたと過去を悔やまない。寧ろ、今までケチを通してきただけ反動が大きいので経済を健常に回すのがこんなに楽しく感じられて嬉しい。


 お察しの通り、私が物理的にアクティブ思考に切り替わったのはお金を使うという当たり前の行為を改た結果だ。


 今では屋外で散策がてらにスケッチを楽しんで、カフェ巡りで気分をリセットし、今まで以上にスーパーの特売に敏感になり、更には手帳会議を楽しむ余裕も生まれた。


 今までどれほど潤いのない生活をしてきたのだろう。……悔やむのは時間の無駄だと切り捨てて、積極的に外出して能動的に『やりたかったことや楽しみたいこと』を優先に考えるようになったのだ。


 人間、何が切っ掛けでスイッチを切り替えたように宗旨変えするか分からない。塞翁が馬とはよく言ったものである。


 これからも計画的に、楽しければいいじゃない! の精神で生きていこうと思う。なんだかんだと言っても人間は定命の小さき者だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る