第8話 螺旋を下る

 気付けば玲香は秀人の背中に乗っかっていた。玲香は秀人の熱くなったものに手をかけ、優しく撫でた。秀人は反射的に声を漏らした。秀人は浴室で感じた膨らみをまた背中に感じて、深く、震えた息を吐いた。玲香の細い指が絡みついて、刺激してくる。


 秀人はもう、限界であった。このまま果ててしまいたくて仕方がなかった。それも想像していた彼女のぬくもりと刺激で。頭の中が真っ白になって、思考が及ばない。もうどうなっても良い。ただ快楽に溺れたい。そう思っていた。


 玲香の指先が上下にそれをなぞっていると、秀人は体をビクつかせ果てた。そのまましばらく快楽に身を任せていた。


「兄さん、」


 と玲香はひどく興奮した声で囁くとう秀人の背後から首にキスをしてその皮膚を吸い上げた。そして耳たぶを軽く噛み、耳元でささやいた。


「私に何してもいいよ。」


 その囁きを聞いた瞬間、秀人は玲香の方を振り向き押し倒した。秀人は玲香の首元に激しくキスをして、すぐに唇にキスをした。玲香の全てを飲み込んでしまいそうなほどに、荒ぶって舌を重ねあった。股間はまだ固かった。もう、本当にどうでもいい、兄妹なんて、と頭の中が性欲に蹂躙され、その衝動が秀人を突き動かした。秀人は玲香のはだけたシャツの中から手を差し入れて胸に触れた。


「ん、」


 玲香の体がはねた。その様子に秀人は顔をにやつかせた。秀人は玲香の隆起した突起を愛撫しながら舌を重ねた。

 

 もう、二人の興奮は最高潮であった。しばらくそうしていると、秀人はシャツの中の手を下へ下へとゆっくり動かす。そしてズボンの中に手を入れた。


 玲香はまっすぐ秀人を見つけて、「いいよ」と目配せした。秀人はそれをみて手をもっと奥に潜り込ませた。


 その時、携帯が着信を告げた。

 

 秀人は驚きたじろぐ。後ろに軽く尻餅を着くと今起きている状況にハッとする。そしてすぐに携帯の画面を見た。


「石井華澄からの着信」


 画面のロックを解除して、通話ボタンを押した。


「先輩、こんばんは。今日は楽しかったね。」


 華澄の声色は、姿を見ずともわかる高揚感を携えていた。


「よ、用は何?」


「あ、先輩息が荒い。また玲香としてたの。もしかしてキス以上のことしちゃった?」


「そ、そんなわけないだろ。」


 秀人は自分の声が思った以上に大きくて驚いく。


「そんなに必死だと怪しいよ。とにかく今日の約束は忘れないでね。あーあとちゃんと玲香とキスしてね。そーじゃないと意味ないから。」


 言われなくともしていた。


「本題。明日の放課後、空いてるかな。」


 秀人は口を手で覆って答えた。


「あ、空いてるけど。」


 と約束のことを思い出しながら言った。


「じゃあ、カラオケ行こう。二人で。」


「わ、わかった。細かいことはまた明日。」


 秀人は返事を聞く前に電話を消した。そして目の前にいる玲香の姿に驚嘆した。ああ、自分は何をしてしまったのだ、と。少し前まで兄妹愛とか家族愛とか語っていた自分を殴りたくなった。


「兄さん、続きは。」


「しない、早く出ていってくれ。」


 秀人は食い気味に、そして今までにない怒鳴り声で言った。


 玲香は驚いた表情を見せた後、そっか、と呟いて部屋を出た。


 秀人はもうしばらくキスをしないことにした。これ以上キスをしてしまったら、また頭が働らなくなるほど発情して取り返しのつかないことになると確信した。玲香や声が頭を反芻して離れなかったので自らで射精して眠りについた。


 翌朝、秀人は朝食を食べず、いつもより三十分早く家を出て学校へ向かった。その時も昨日の夜の光景が離れなかった。


 頭の中から玲香が、玲香のとろけた顔がずっと離れずに、授業も集中できずに放課後になった。秀人は机に突っ伏していると、陽気な声が語りかけた。


「よ、朝から浮かない顔でしたね秀人さん。悩みなら里佳さんが聞きましょうか?」


 里佳は、軽く秀人の頭に手刀でチョップしながら言った。


「ああ、気にしないでくれ。」


 消え入るように言った。


「いつも鬱蒼としてるけど今日はいつもに増して鬱々だねえ。どうだい、これから私とお茶でも。」


「いいよ。」


 秀人は空返事をした。


「え、まじ?」


 里佳は顔を輝かせた。ポニーテールが跳ね上がったように見えた。


 秀人はその反応を見て、やばい、と自らの精髄反射的な返答を悔いた。里佳の太陽のような笑顔にあてられて、やっぱり他の人と約束があるというのが億劫になった。しかし、破ることのできない約束、秀人は鎖で繋がれたも同然の存在であるため、太陽に雲を被せることを泣く泣く選んだ。


「ごめん、実は今日他に用事が。」


「え、何、今の嘘なわけ。流石に酷いよ。なんの用事。」


 里佳の笑顔は鉛色に変わってどんよりとした声色が少し恐ろしかった。秀人は本来ならもっと軽く流すのだが、そんな里佳に申し訳ない気持ち抱いて説明した。


「一年の石井さんっていう女の子とカラオケに行く約束をしたんだ。」


「へー、やっぱ秀人モテんじゃん。」


「え、何?」


 里佳はブツブツと呟くように言った。そして閃いたという表情をして続けた。


「あ、じゃあ、私も行きたい。実は華澄さん、バスケ部でマークしてた子なんだよね。背が高くて運動神経も良い。(おまけに美人)。それでちょっとスカウトしたいなあと。だから私にも合わせて、(秀人との関係性も知り合いし)お願い。」


 里佳は懇願するように言った。秀人は途中里佳の言っていることが聞こえなかったが、気にすることなくすぐに断ろうとした。しかし、もしかしたら好都合かもしれないと思った。里佳を連れて行けば約束を破ることになる、しかし、里佳の図々しさと陽気さならば、ついてきてしまったことにできるかもしれない。そして、キスなんてしなくて済む、そう思った。


「わかった、いいよ。じゃあ用意して。」


 秀人と里佳は、華澄の待つ待ち合わせ場所に向かった。

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