第13話油を作ろう

 本当に運が良い。―運だけでは説明付かない気がするが…と、いうよりも絶対に説明がつかないのだけれど、気にしたらいけない!気にしたら負けという奴だ…。


 拠点への帰り道、仕掛けた罠を確認するとまた鳥が掛かっていたんだ…。鳩が一匹とメジロが二匹も…。とにかく獲れたからには下ごしらえの為に川へと向かう。その際、何とアボカドの木を発見したんだ。


「豊和君、何だか嬉しそうだね?」

「そりゃあ、そうさ!これはアボカド。森のバターとも言われている。そんなアボカドの実がなってるんだぜ?」

「…森のバター?」

「うん。これで手作り油を作れるんだ!油だぜ、油!料理の幅も広がるんだ」

「油って…あの油!?油が手に入るの!?」 「ああ、保存する容器が無いから油を使いたい時はまたここに実を取りに来るとしようか。ノートに場所を書いておくからちょっと待って?」

「ノートに場所を書くなんてマメだよね」 「あ〜 こういうのはいざって時に役立つし、忘れた時の為に書いて置けば安心だろ?」

「うん、だね」

「よし、書けた!まずはこのまま予定通り鳥の下ごしらえからするよ」

「私はその間に何する? と、豊和君に抱きついておけば…いいかな?」

「…えっ?」

「じょ、冗談だよ、冗談」

「…そういう冗談は止めような?本気にしてしまうから」

「え〜と…し、した方がいい?」

「と、取り敢えず…アボカドの実を取り出してタオルに包もう…。そして鍋代わりの容器に搾って貰おうかな? 大丈夫?」

「す、スルーされちゃったけど…うん。任せて」


 本気にしてしまうから冗談は止めて欲しいところだ…。とにかく作業を分担して作業をこなしていく。結構搾るのって力がいるんだよね…。鳥を急ぎ捌いて優花を手伝う…。


 暗くなる前には全ての作業を終え拠点に戻る事が出来た。


「さあ! イッツ! ショ〜タイム♪」


 火にかけ温度が上がった油の中に捌いた鳩とメジロを投入!


  ジュワ!―バチバチバチバチバチバチ!


  ─油の弾ける音。食欲をそそる良い音が辺りに響く。音だけではない…。鶏肉が油によってこんがりと揚げられいき良い匂いが漂っている!


「ごくっ…い、今のは違うからね!?」 「大丈夫だよ、優花。俺も同じだから…」 「こ、こんな所で油料理が出来るなんて…」 「これがホントの手作りの植物油だよな」 「うわ~ 鶏肉が良い色になってきたよ~」 「これ絶対旨い奴ぅぅぅー!」


  テンション爆上げだな!


「―そろそろ良いかな? その鉄の皿を取ってくれ、優花」

「ハイッ!どうぞ」

「サンキュー!」


  木の枝を箸代わりに油から鶏肉を上げる。こんがりと見事に揚がった鶏肉は見ているだけでも薫りを嗅ぐだけでも…とにかくどんどん口の中に涎を溢れ出させてくれる…。


 やるな…油料理…


「さあ、熱いうちに頂こうぜ」

「うん♡」

「「頂きま~す!!」」


「「パリッ! もぐもぐ…」」


「「―ゴクッ…はぁ〜 美味しい…」」 「凄く美味しいね♪」

「ああ! ほらっ、塩もあるぞ、優花」


 ―パラパラパラッ!


「!? …し、塩なんて…禁断の調味料だよ〜 鳥さんを口に運ぶ手が止まらないよ〜〜〜」

「あ~ ホントだよな…。これこそまさに味の宝石箱や〜!―って、感じだよな。何で油で揚げるだけでも鶏肉ってこんなに美味しいの!?口に運ぶ手が止まらなくなるぅ~!」 「だよね!」


「ホント 私だけこの島に流れ着いてたと思うと…ゾッするよ」

「そう?」

「そうだよ!私だけだったら野菜丸かじりとか…よくて果物だけしか食べれて無かったと思うし…。だからホントに豊和君に感謝してるんだ…」

「…き、気にしなくていいから…」

「あ~っ!? 豊和君が照れてるぅ~〜」 「そ、そりゃあ、今をときめく美少女アイドルの優花にそんな事言われたら…照れるよ」 「ふぁっ!?ももももも、もう…豊和君の馬鹿ぁ〜 今は私のターンだったのにぃ!」 「…何のターンなんだよ!?」

「もう!ホントにもうっ!」

「まぁ〜まぁ〜 とにかく残りも食べてしまおうぜ!」

「…うんっ」



******


「「ご馳走様でした!!」」

「ふぅ~〜 食べた食べた」

「食べ過ぎて太ってしまわないか心配だよ~!?」

「大丈夫だよ、運動もしてるし…優花は細いし…って、セクハラか?」

「わ、私にはセクハラじゃあないけど…そんな風に言われると照れちゃうよ?」

「…気をつける」


「あっ!?豊和君見て見て?星が綺麗だよ」 「ああ…ホントに綺れ……」

「んっ? 豊和君どうしたの?」

「…そん…な……やっぱりここは…」

「豊和…君?」


 星を見て今頃気付くなんて…


「優花…残念ながら…助けは来ないと思う」 「!? ど、どうして?」

「こ、ここは地球では無いから…だよ」 「…えっ!?」

「もっと…早く星を見ておくべきだった。星の位置である程度…今居る場所が予想出来るから…」

「…そうなんだね」

「…この星空はあり得ないんだ…」

「あり得ない?」

「ああ…だって…全ての…12星座が輝いているのだから…」


 夏と冬に見れる星座…そんな正反対の星座が輝いているなんて…


「…そうなんだね」

「言わない方が良かった…よな?ゴメン」 「―ううん。大丈夫。私達がどうしてそんな所に来たのかは…居るのかは分からないけど…1人じゃないし…なにより…豊和君がいるから…私は平気…」

「…優花」


 優しく優花は俺の手を握ってくれる。


「だから大丈夫だよ?ここで生きていくしかないのなら2人…頑張って生きていこうよ」 「うん」


 こうして3日目を無事終える事は出来たもののここが地球では無いという事に気付いた衝撃的な1日でもあった。そんな事実に俺1人なら心が折れてたかも知れない…。


 でも優花のお陰でここで生きて行くしか無いと前向きにも捉える事が出来たんだ。


 ありがとうな、優花…

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