第9話罠作り

「そ、そういえばね、あ、厚かましいんだけど…お願いがあるんだ…」


「んっ? 何? こういう時って溜め込まない方がいいからさ」


「う、うん、ありがとう。え〜とね、私のバッグは流れ着いてないじゃない?」


「ああ、今の所は見ていないね。もしかしたらここから反対側に流れ着いてるかも知れないけどね。まあ、ほとんど流れ着くのは難しいと思うけどね…。一応暫くしたら島の外周に沿って歩いたりして地形等や色々確認しようとは思ってるけど…」


「うん。だよね。私も分かってる。そ、それでね、言いにくいんだけど…」


「ホント何でも言っていいよ。ストレスとかはサバイバルでは結構溜まりやすいしね、溜め込むのは良くないしね」


「そ、それじゃあ、豊和君のブラウスとズボンを借りてもいいかな?」


「ああ、少し大きいと思うけどその位お安い御用だしいつでも言ってよ!ごめんね、気付かなくて…。着替えは当然したいよね!」


「何から何迄本当に豊和君にはお世話になります!ありがとう」


「どういたしまして!」


  俺は早速替えのブラウスとズボンを優花に渡す。トラベルセットは昨日ご飯を食べた後に渡した。歯ブラシと歯磨き粉、シャンプーとリンスが入っているアレだ。俺は失くした時の為や何かあった時の為に荷物はかさ張るけど多めに持って行く様にしていた。それが役に立ったという訳だ!


 因みにだが歯磨き粉はまだ使って無い。炭を石で細かく砕きパウダー状に擂り潰した物を使っている。難点は歯がしばらく黒ずむ事…。イカスミパスタ食べた感じににているよな(笑)まあ、トラベルセットの歯磨き粉は量が少ないし、大切に使おうか優花にあげるとしようかな。


「じゃあ、着替えたら洗濯から取り掛かるね」


「うん、お願いするね!優花が着替えたりしてる間に木と木に蔦を結んで着替えを干せる様にしておくから。竿ではないけど簡易洗濯竿って所かな」


「うん。で、でもさ…。こうしてサバイバルしながら一緒に生き抜いていかないとっていう時に思うのは不謹慎なんだけど…なんだか私達…新婚さんみたいだね?」

「ふぁっ!?」

「っ〜〜〜!?い、今のは無しでっ!わ、わ私着替えて来る〜」


 優花は慌ててシェルターの中へ駆け込んで行く。アイドルで美少女の優花にそんな事を言われたらオタクなら悶死だろうし、普通の男でも勘違いしてしまうぞ、今の言葉は…。


 俺自身少し頬が熱く赤くなっていると思ったのでそれを誤魔化すかの様にいそいそと蔦を木に結び始めるのだった…。


  そんな事がありながらも着替えを終えた優花と共に川へ行き、俺も今朝着替えた服を洗っておく事にした。優花は私が洗ってあげるからと言ってくれたのだが流石に任せるのもね…下着もあるしな…。


 服を洗った後は優花が俺が作った洗濯竿へと服を干してくれた。俺はその間に川の水を煮沸したりして飲み水を確保する事にした。

 役割分担だな…。


「豊和君洗濯物干し終わったよ!」

「―ありがとう、優花。こっちも飲み水は確保しておいたから水分はしっかり取るようにしてくれな?」

「うん、分かった。でも川の水ってそのまま飲めないんだね。あんなに綺麗なのに…」

「まぁ、念には念を入れて置かないと…。こんな状況だからな…」

「豊和君ってホント頼りになるよね(昔から…)」

「ああ、こういう事なら任せてくれよ!」 「うん。頼りにさせてもらうね!それでは隊長!次の命令をお願いします!―なんちゃってね!」


 おどけて敬礼してみせる優花…マジ可愛過ぎるからそういうのはやめて欲しい…


「…あ、余り可愛い表情やそんな仕草をしないで貰えると…助かる」

「ふぇっ〜!?かわっ!?可愛いっ!?」 「あ、いや…そうだ。つ、次は罠を作って鳥なんかを獲る準備に入ろうぜっ」

「ぅ…うん…」


  そんなやり取りをしてしまったせいで二人共顔が赤い…。小っ恥ずかしくなりながらもまずは鳥の餌になるような物を探す事にした。少し森の奥へと歩を進めると俺はミニトマトがなっている場所を発見…。こんな場所にミニトマト?―まさか…でも…あり得る…のか?


「ねぇねぇ、トマトがなってるよ!ミニトマトがいっぱいだね豊和君!」


「あっ…ああ…」


「―わあ〜 こっちにはカブ?これってカブだよね?これも食べれる…よね?」


「……(カブ迄あるのか!?)」


「? 豊和君? どうかしたの?」

「いや、すまない。そうだなあ〜 ミニトマトと…カブを収穫して持っていこう。このバッグに入れようぜ」

「どれくらい穫ればいいかな?」

「食べれる分だけにしよう!熟れているのを中心にして穫って、食べてしまったらまた取りに来れば良いしな。それと幾つかは念の為に種を植えておこう」

「そ、そうだよね。いつ救助に来てくれるか分からないもんね?」

「…嗚呼」


 予想外の収穫を終えた俺達は当初の目的通りに鳥を獲る為の罠作りに取り掛かる事にした。ミニトマトを獲る時に幾つかは鳥がつついた跡があったのだが今回は木の実にする。


 注視しながら森を歩くとキハダと呼ばれる木が生えていた。今回はキハダの木の実を使う事に。キハダはミカン科の落葉木で、球形の実をつけ、熟すと実は黒くなる。それを採取…。


 そしてそのキハダの木の近くに罠を幾つか作る事にした。『くびち』と呼ばれる鳥の罠だ。どういった罠か簡単に優花に説明する。   


「この罠はこういう風に生えている細めでしなる木を利用するんだ。まずはこの木の先にツタを巻いて―っと…。そして巻いたツタの反対側の先で輪っかを作って…」


「そうなんだね!この木のしなるバネの力を利用して鳥さんを捕まえるんだね?」


「流石、優花!その通りだよ!」


「えへへ…褒められちゃった…」


 この仕掛け作りは意外にも慣れると簡単なので五つ作っておく事にする。少しでも獲る確率をあげる為だ…。肉も必要な栄養素。


 そんな風に思っていると、ここで予想外の事態が起きた…


ビシュッ!


 ─背後から風を切る様な音とともに聞こえてきたのはバサバサ―と、羽を羽ばたかせる様な音…。まだ罠作ってる最中なんだけど!?そんな事あるのかよ…


「とっ…ととと、豊和君…アレっ!?」 「…分かってる」

「あ、あれってアレだよね?」

「うん、鳩だな…」

「…鳩って食べれるの?」

「それは大丈夫。まぁ、普通は獲ったらいけない筈だけど、鳩肉って売ってる所には売ってるし、今はそんなの気にしていられないしな…。何より鳩肉は赤身肉でレバーみたいな感じだな。 それにこういう時に不足しがちなビタミンB1やビタミンB2、ミネラルを豊富に含むから、疲労回復の食材としてもお薦めなんだが…」

「さ、流石豊和君…。知識が博識というか」 「それよりも俺は現実だろうけど現実じゃないみたいに思えるよ…」

「え〜と、どうして?」

「だって普通はこんなに早く獲れないからかな…それに鳩がいるとは…」

「珍しいの?」

「あっ!悪い、優花!とにかく獲れたからにはシメないとな!まずはこの鳩を持って川へと向かおう!」

「う、うん」


******


「―優花は見ない方が良いと思うぞ?」 「…う、うん」

「あっ」

「どうしたの?」

「でも…俺に何かあった時の為に覚えておいた方がいいかも…」

「…そんな事考えたくないけど…」

「取り敢えず今日は俺だけで捌いておくよ」

「…ん」


  川に着くと同時に鳥の首を落とし足を持って逆さまにして血抜きをする。そして刃物代わりの鉄片で切っていき、臓器を取り出し羽をムシる。女の子には残酷な行為に感じてしまうんじゃないかな…。男の俺でもかなり抵抗感がある。でも…生きる為に命を奪うのだ。生半可な覚悟ではサバイバルでは生きてはいけない。


 下処理を終え拠点へと戻り、穴を掘って燃えてる木を幾つかその穴へと投入。鳩肉を大きい葉っぱでくるみ、その中へ入れ土を被せて蒸し焼きにする。昼はミニトマトと鳩肉蒸し焼き。かなり豪華な食事といえる。調理時間は掛かるが美味しく頂ける肉の焼き方だな。


「ねえ、豊和君…さっきから…時折浮かない顔してどうかしたの?」

「!?」

「―何かに気付いたんだよね?1人で抱え込まないで?」

「そんなに様子がおかしかったか?」

「うん。何か悩んでいる様な感じだったから…」

「そうだな。隠し事は無しだよな…。驚かないで聞いて欲しいんだけど…」

「…うん」

「ミニトマトとカブなんだけど…」

「それがどうかしたの?」

「まぁ、普通に考えたら無いかなと思うだけだし、まだ全然確証とかが無いんだけど、ミニトマトは夏野菜、カブは冬野菜。それがあり得ないと思ったんだ」

「…それで?」

「ここは…流れ着いたここはどこなのかとずっと思ってたんだ」

「そうなんだ…」

「勿論冬でもミニトマトが生えてる場合もあるし例外はあると思うからこう答えがでなくてモヤモヤしてるっていうか…」

「…うん」

「…優花は大丈夫か?」

「私?そうだね。確かに不安はあるけど豊和君が居るし1人じゃないから…」

「そうか…そうだよな。優花が居てくれるからこうして話出来るし…1人で抱え込まなくて済むから助かるよ」  

「取り敢えずは2人で出来る事をこなしていこうよ!私、しっかり豊和君のサポート出来る様に頑張るから!」

「うん。ありがとうな、優花」

「エヘヘ…」


 ―1人じゃない。こんなに心強い事は無いだろう。ホント人間って頼れる人や信頼出来る人が傍に居ると精神的にも強くなれるもんなんだなと改めて思った。

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