第5話ここはどこ?

「身体は大丈夫歌羽さん?」


「…うん…大丈夫…だよ?」


「…頬が赤いみたいだ。怠さとかどこか痛いとか体で気になる所は無い感じ?」


「ふぇ!?」


 若干頬が赤い気がしたので無意識に歌羽さんの額に手を添えてしまった。そりゃあいきなり触れられたらビックリするよね…


「あっ、ゴメンね?少し顔が赤い気がしたから熱とか出てないか気になって…」


「う、ううん 平気…体は本当に大丈夫だから」


「そっかぁ、お茶は飲んだ?」


「うん…これ、頂いたよ?ありがとうね」


「どういたしまして」


─ぐぅ~!  


 彼女のお腹から音が鳴り恥ずかしそうにしながらモジモジしている…うん、現役アイドルが恥じらう姿の何と神々しい事か…ありがとうございます。


「あうっ い、今のは…その…」


「ちょうど魚焼けたみたいだから良かったら食べる?元々歌羽さんが起きたら食べさせようと思って取ってきてたんだ。魚…苦手だったりする?」


「…ううん、ありがとうね?嫌いなモノはないから大丈夫」


「そっかあ。じゃあ食事しながらでも話しようか?」


「うん」


「はい。熱いから気を付けて食べてね?」


「ありがとう。 パクッ…はふはふ…ゴクッ !? ぁっ…美味しい」

「―だろ?結構ベラってイケるんだよ。酢と醤油があれば酢醤油でもイケるし、せごしと言って骨ごと生のベラを薄く切って刺身でもイケるしね」


「そういう事に詳しいんだね末広君は」


「ああ、俺はこういうのが趣味だから…」


「ふふっ…知ってるよ…」


「えっ、知ってる?」


「あっ 違っ!? ううん、何でも無いよ」   

「そ、そう?」


  まあ、知ってるだなんて言い間違いだよな。


「そ、そう言えば、末広君は何を食べてるの?」

「嗚呼、これは黒貝とヤドカリだよ」

「ヤドカリって食べれるの?」

「嗚呼、実はタラバガニもヤドカリの仲間だし、これも食べれるよ。結構ミソの所が美味しいし、贅沢言ってられないしね」

「も、もしかしてこの魚って末広君が食べる為に取って来たんじゃあ?」

「違う違う、それはね、元々歌羽さんに取って来た食べ物だから。まぁ、運良く見付けられただけだけどね? ほら、ヤドカリとか貝とかは歌羽さんが食べられるか分からないし、なによりまずは栄養取らないとね?」


「改めてホントにありがとうね、末広君。…」


「うん、本当に良かったよ。歌羽さんを助ける事が出来て…。歌羽さんを見つけた時…息してなかったんだから…」


「…知ってる」


「―知ってる?」


「あ、あのね?私をおかしいとか思わないで話を聞いて欲しいんだけど…」

「うん、分かった」

「じ、実はね…


「んっ?」


砂浜で倒れている自分を見ていたって言った?


「だ、だから…ホントに不思議なんだけど…。す、末広君が私の所に駆け寄って来て…その…あのね?私を助けてくれてる所を…

「い、一部始終…見て…た?」

「…うん」


  歌羽さんの頬が物凄い勢いで赤く色づいていき、顔を伏せてしまった…。それが焚き火の火に照らされたせいなら良かったがそうでは無いだろう。歌羽さんは一部始終と言った…。どうやって見たのかは分からないけど、そこから察するに…人命救助とはいえ心臓マッサージや人口呼吸の時にした事を指しているのだろう…


「え〜と…あれはだなぁ〜 その、あれは人命救助で…」


「う、うんっ、わわわわわ分かってるよっ!?」


  ─なんというか…うん、非常に気まずい…かなり気まずい事このうえない…。


「わ、分かってるから…で、でもその…聞いておきたいというか…気になるというか…あ、あのね…わ、私の胸…どうだった?」


「ふぁっ!?」


  変な声出ちまったよっ!?何言ってんの!?アイドルだよね!?これ壮大なドッキリ!?ドッキリなのか!?えっ?これ、本当に答えるの?答えないといけないのかっ!?辺りを見回すけどカメラマンの気配はない…俺に聞いてるんだよなっ!?俺しかいないよなっ!?これで答えて俺に聞いてたわけじゃないとか言われたらかなりショックなんだけどっ!?意を決し…


「…た」


「た?」


「大変綺麗なものを魅せて頂きましてとても眼福でありました…」


「はうっ!?」


  なんなんだこの空気は!?童貞の俺に歌羽さんは何を聞きたいのさっ!?新手の拷問かっ!?俺にも恥ずかしさはあるんだからねっ!?


 ―羞恥心がハンパない…


「キ、キスも…初めて…だったんだ、私…」


 だ、だよなっ!?ドラマでもキスシーンとかは全て断わってるって有名だし!?で、でも人口呼吸は人命救助だからっ!!


「すんませんでしたぁー!!!」


  ─とにかく俺の体は瞬時に物事を理解。そして動いていた…。必殺のジャンピング土下座を繰り出したのだ。


「ちちち、違うから…謝らなくても良いからっ!そうじゃなくて私は末広君がっ…ああ〜 違っ!?ととにかく食べながら話するんでしょ?わ、私も少しヤドカリを食べてみても良いかな?」


「あっ、はい…」


「じゃ、じゃあ頂くね? ぱくっ―もぐもぐ ごくん…あっ、結構イケるかもっ」


「は、はい。イケるであります」


「も、もう 何で言葉がおかしいの? ふふっ…末広君可笑しい」

「…歌羽さんのせいなんだけどね」

「ま、まぁ〜 良いから良いから!―で、ここはどこなんだろうね?私達どうなったのかな?」

「―歌羽さんはどこまで憶えてる?」

「飛行機に乗ってて…急に飛行機が傾いて…そこからは分からない感じ…かな」

「俺も似たような感じ…。急に飛行機があんなに傾いたと思ったら…そこで記憶は終わって目覚めたら俺はここだったしな」

「…他にもここに流れ着いた人って居るのかな?」 「今の所は…人の気配はしないかな」

「そっかぁ、2人っきり…なんだね」

「…心配したらアレだからあんまり言いたくは無いんだけどこの先を考えて伝えておいた方がいいと思ったから伝えたいと思う…」

「ごくっ…な、何を?」

「まだこの島の反対側を見てないから何とも言えない所ではあるんだけど、空を見ても飛行機やヘリコプター等は飛んでいないし、見渡す限り船も見えない。助けがいつ来るかなんて全く分からない状態なんだ」

「それは…うん」

「―だから正直…食料も選り好み出来ない状態と思っているんだ…」

「…分かってる」

「まぁ、出来るだけ歌羽さんが食べられるかなぁと思うモノにはするつもりだけど…」

「ありがとう末広君。それとね?大事な話に言う事ではないんだけど……優花…優花って呼んで欲しいの…」

「えっ!? あ、ああ。歌羽さんがそれで良いならそうするけど…」

「ホントっ!?じゃあ宜しくね、豊和君?」

「え〜と…宜しくね、優花さん」

「さんは要らないよ?」

「あっ、うん…優花」

「うんうん、宜しい♪」


 名前で呼ぶと歌羽さんは嬉しそうに笑顔を見せてくれる…


「あっ…」

「どうしたの豊和君?」

「悪いんだけどさっ…」

「な~に?」

「今日の寝る所に関してなんだけど…ハンモックを優花が眠っている間に作ったんだけど横に並んで付けても大丈夫かな?シェルターを作る迄の間だけでもいいからさっ…」

「豊和君が作ったんだからそんな事は気にしないで!それに…私も1人で寝たくないし、豊和君が傍に居てくれると安心するから…だから…こちらからお願いしたい位だよ…」

「あ、嗚呼…ありがとな、信頼してくれて…」



  俺はハンモックを並べてシェルターの中に取り付けた。ただ…この時点で気付くべきだった…。

 美少女が隣で眠っているとどうなるのかという事に…。


 優花の可愛い寝息が聞こえてくるうえに優花から甘い匂いがする…。すると中々寝つけなくなる事を俺はまだ知らない…。

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