第4話彼女は…

 作ったシェルターにあるお手製の竹のハンモック。彼女をそこへ寝かした後、起こさない様にブラウスのボタンをつけてあげる。そのままにしていたら誤解されてしまうだろうしな。


 それから彼女の顔色等を確認する。


 問題無い…とは思う…。呼吸も平常、顔色も良い。


「取り敢えず良かったんだよな?本当に頼むぜ、神様!」


 俺は彼女を知っている…。彼女は俺と同じクラスの歌羽優花うたはねゆうか。現役のアイドル。


 今時のアイドルでは珍しく黒髪。そんな彼女が歌って踊ると腰迄ある艶のある髪が粒子を放っているかの様に魅せられ人を惹き寄せる。清楚で可憐な今話題のアイドル…。


 そんな彼女がこの島に流れ着いたみたいだ。 俺は彼女とはあまり話した事は無い。そりゃあそうだろう?俺は一般人のモブ、一方の彼女は超人気アイドル。


 まず俺とは住む世界が違うと思ってるしな。


 とにかく…ゆっくり彼女は寝かせておくとして、自分の荷物にあったお茶をシェルターの入り口近くに置き目が覚めたら飲んで下さいと一言地面に書き置きを残す。


 それから俺は昨日ハンモックを作った時に半分に割った竹等を持つと海岸へと向かった。もう1つハンモックを作る為だ。間近で音を立てるわけにはいかないしな…


「さて―と、チャッチャッ―と作って歌羽さんの分も食料取らないとな…彼女が元気になる事を願って…」


 有言実行!1時間も経たない内にハンモックを作れたと思う。作り終えると一旦拠点に戻り彼女の様子を確認する。うん、彼女はまだ寝ているみたいだ。異常は無いよな?


 心配なんだが俺は俺でやれる事をまずやっておこう。火を海岸でも使う為に、木に火を点けて持って行く。早い話たいまつだな…


 海岸へと再度移動した俺は落ちている薄めの鉄片を石で叩き、丸みを持たせて鍋を作る。そしてそこへ海水を入れ火にかける。


 何をしているかって?塩を調達するためだ。火にかけていると時間は掛かるが海水が蒸発。塩が残る。塩を作るのが目的だ。 塩作りを待つ間に今度は食料の調達を行う。場所は今日二度目となる磯。磯に登り一応回りを確認する。気になる物は無いな。


 よし!食料に集中しよう。昨日に引き続き黒貝、そしてヤドカリを取る。ヤドカリの貝の大きさが10センチ以上あれば食用として量は充分なんだが…浅いから小さいのしか居ないな。贅沢はいえないしな。仕方ないので数多く食べる事にしよう。


 次に潮が引いた後の砂浜も見て回る。そうするとベラを一匹発見する事が出来た。たまに砂浜にこういう風にベラがいる事があるのだ。ベラをその場でシメ、海水で内臓とエラを取り出す。


 そんな事をしているとあっという間に時間は夕方近くになった。塩作りの鍋を覗いて見ると塩が少しだけ出来ているので鉄片で掠め取りベラに塩を揉み混む。これで最高の塩焼きが出来る。歌羽さんが起きたら食べさせてあげないとな…


 そして拠点へと戻り食料を調理していく。ベラは尖った木の枝に刺し火の近くへ。貝とヤドカリは鍋代わりの鉄片に置き、下から火をあてる。


ベラからは魚が焼ける良い匂いが漂ってきて、貝やヤドカリも香ばしい匂いが漂い始める…



「…末広君?」


 ─そんな時に突然女性の声が聞こえた。声のする方に振り向くと視界には歌羽さんの姿が映り込んだんだ…。

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