113 エピローグ 鳳凰暦2020年5月18日 月曜日1時間目 国立ヨモツ大学附属高等学校1年3組


 第一テストの発表が朝の生徒昇降口前の掲示板に張り出されて学年20位までの順位が公表され、各教室ではクラス順位による新しい座席表が掲示されて席替えがされていた1時間目は、何人かの男子生徒たちの強い要望によって、担任の野上先生はLHRに変更した。


 その要望とはクラスのパーティー編成に関することだった。


 元々、3組は学級代表の大津が強権を発動して、クラスの座席の横列でパーティーを決めていた。


 その結果、どうなったかというと、もっともクラスで不利な立場のペアになったあたし――伊勢五十鈴と、宮島紅葉――宮島さんが、5月の第一テストを終えて、学年12位と13位にランクインして、3組の首席と次席になり、今は教室の右前、廊下側前方に前後で座っている。残念ながら、3組からは他に20位以内にランクインした人はいなかった。


 簡単にいえば、あたしと宮島さんは下剋上を成し遂げたのだ。全部鈴木くんのお陰だけど。


 大津のやり方で一番不利になったはずのあたしたちが、3組で一番と二番になったのだから、あたしと宮島さんの存在そのものが、大津のやり方が間違っていたと証明していると言えた。気分がいい。


 大津たちがダン禁処分を受けた後、テスト週間中の学校祭のためのLHRでも、クラスのほとんどの生徒は大津の話を聞かなくなっていた。GWまでのダンジョンアタックでも、3人組はやっぱり他のクラスの4人組よりも効率が悪くて、実際、教室の中で聞こえてくる今回の順位はこのままだと2年生では4組になるだろうな、という順位だった。


 あたしと宮島さんは、この順位なら2年生では1組だから、もう、完全に別世界の住人のような感じ。ある意味では、あの時、すきやき梧桐で矢崎さんが言った、遠巻き、という言葉がとてもしっくりとくる。確かに「遠巻きは除け者の一形態」で間違いない。


 それはそうだ。このクラスの中には、あの時、ペアでなんとかしようと足掻いて、苦しんでいたあたしたちを助けようとした人は一人もいなかったのだ。


 大津は、最初のパーティー分けで、「これはあの日本ランク1位の陵竜也が実際に高1でやったパーティー分けだ」と言って、みんなを納得させていた。


 はっきり言えば、大津と日本ランク1位になった陵竜也とでは、人間としての器が違う。同じやり方でも、大津がそれを成功へと導ける保証はどこにもない。誰も、そのことに気づかなかった。ただ、日本ランク1位のやり方だから正しいと妄信しただけ。


 実はそれも、真実と違ってかなり怪しいものらしい。鈴木くんが「僕の情報源から聞いた話だと……」という前置きで教えてくれた話だと、高1の時の陵竜也は、確かに横列での3人パーティーを組ませたけど、その時、「オレが一番不利になるペアのところに入る」と漢気を見せてペア枠に入り、さらにはクラス全体をサポートするように毎日、いろいろと活動していたというのが横列3人パーティーでの真実だったとか。


 パーティー分けだけを決めて、何のサポートもしてくれない大津が、陵竜也のような成功へと導けるはずがなかったのだ。


 まあ、あたしはこれを鈴木くんから聞いた後で、「実はさぁ……」とクラスの附中出身者とかに、わかりやすく教えてあげたんだけど。


 それをさらに、陵竜也が佐原先生の教え子だったと知ってた人が、その内容を佐原先生に確認して、陵竜也が一番不利なペアだったことが本当に事実だったとわかってしまい……。


 その結果、クラスのほとんどの生徒たちが大津への不満を募らせて、大津がダン禁処分を受けたことも重なって、もう、3組では大津は学級代表としての立場がない。全然ない。ざまあみろ、このバーカ。心からそう思う。


 今もLHRで教卓のところに立ってるけど、誰も大津の話なんか聞いてない。なんとか、自分たちで、できるだけ有利なパーティーを組もうと教室の中で右往左往してる。


 中には、あたしと宮島さんのところにやってきて、「伊勢、一緒に組んでよ」なんて言った強者もいた。アンタがあたしたちのこと、ランナーズって呼んで馬鹿にしてたの知ってるから。わざわざ言わないけど。それで「あたし、宮島さんとズッ友ペアでいいから」と言って「ねー」「だよねー」と二人で笑い合って追い払ったら、それからは誰も来なくなった。平和でいい。


 それでも、そこそこ力のある推薦組の生徒を中心に、次々と新しいパーティーが決まっていく。そうすると、あたしと宮島さんがペアになってる関係で、35人のクラスだから、残り33人のうち、誰か一人がソロになるか、それともいくつか人数バランスを崩したパーティーを作るか、という状況になってきた。


 でも、みんな、もう3人パーティーだと4人パーティーには勝てないことを知ってるから、少人数には絶対になりたくないみたいで、パーティーを組むのがすごく難しくなってきた。そうなると、割を食うのは、そもそもの実力が低くて、順位の低い人だ。


 最後はダン禁処分を受けた大津たち附中3人組の三馬鹿と、入学時は3組一般11席だった那智さん、同じく一般12席だった端島さんの2人の、合わせて5人が残った。


 人望がゼロになった大津が、「おまえらのどっちかをこのパーティーに入れてやる」とか言ってるのが聞こえてきた。他のみんなも白けた顔で見てる。こいつはまだ、誰かをサポートしようという気持ちを持ててないのだ。本当のバカだと思う。


 那智さんと端島さんは、席替えの前の入学時も、新しい席で一番窓側の後ろの3組最下位になった今も、二人の座席は前後で、入学してからいろいろと仲良くやってきた二人だ。大津の言葉に乗るはずがない。


 那智さんと端島さんは「そのパーティーに一人だけ入るくらいなら、二人のペアでやる」と宣言して、LHRは終わった。1年3組は、大津の所業によっていろいろと考えさせられたにもかかわらず、また、弱い者を弱い立場へと追いやる、本当に残念な集団だった。救いようがない。


 LHRが終わって、あたしと宮島さんは見つめ合い、互いにうなずくと、「二人で頑張ろう」と泣きながら励まし合ってる那智さんと端島さんに近づいた。


「ねえ、二人がペアで頑張るっていうんなら、アドバイスができると思うんだ……」

「だから、昼休み、あたしたちと一緒に、いろいろと話すのは、どうかな? 二人が嫌じゃないなら、手助けができると思うけど……」


 そう、あたしと宮島さんは声をかけた――。






 ――そして、昼休み。


 あたしと宮島さんの後ろには、緊張で顔を強張らせた那智さんと端島さんが歩いてる。


 あたしは心の中で、大丈夫、きっとなんとかなるから、とつぶやく。そして、それは、これから必ず真実となる、そう確信できる。


 あたしはミーティングルームのドアを開いて、新たに除け者となった二人を中へと招き入れる。


 そこには、4組なのに1組のほとんどを追い越して2位、4位、5位にランクインした奇跡の3人、岡山広子、高千穂美舞、酒田あぶみと、逆に1組なのに学年の138位という低位に落ちて有名になった悲劇の追放者、矢崎絵美がいて――。


 ――トドメに、ゴブイチRTAでほとんどの学年の生徒に顔を知られているにもかかわらず、本人には全くその自覚が感じられない、あたしたちの学年の超有名人にして、1組首席で学年首席の孤高の天才ランナー、鈴木彰浩が――って、あれ? 今は、鈴木くんだけいないな? ま、いっか。


 あたしは、中に入った二人に微笑みかけて、こう告げる。


「クラン『走る除け者たちの熱狂~パライア・ランナーズ・ハイ~』へようこそ。あたしたちは除け者にされた人の味方だから、もう安心していいよ。きっと、二人には最高のアタッカー生活がこの先、待ってるから!」


 ……クランリーダーがかなりの曲者だってことは、あえて口にしなかったけど!


 でも、きっと、なんとかなる! このクランに入れば絶対に大丈夫なんだから!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る