107 鳳凰暦2020年5月5日 火曜日朝 通学路
今日は火曜日だけど、いつもの火曜日よりも朝は早い。
……道場の時間は少しだけ短くなっちゃったな。
いつも五時起きだから、朝が早いとかは特に問題はない。だから、あたし――設楽真鈴は、今日も朝から絶好調だ!
GWも全部ダンジョン。ヨモ大附属のダン科は、部活の強豪校と変わらない生活だと思う。どちらかというと、ダンジョンアタックの時間が限られてるから、部活の強豪校より拘束時間が短いくらいかも。
……とりあえずGWが終わればテスト週間だけど、それは今、忘れるようにしてる。
待ち合わせの角のタバコ屋が見えると、思わずにやついてしまう。憧れの平坂さんとの待ち合わせ場所だから。
今までは、この火曜日だけだったけど、昨日も、一昨日も、朝から一緒にダンジョン! いろんな意味でダンジョンは楽しいし、最高かも。
サラサラの黒髪ボブをさわやかに揺らして、平坂さんが歩いてくる。今朝ももちろん美少女。あたしは自分のそばかすフェイスを思い出して、ちくりと胸が痛むけど、それ以上に平坂さんを見たご褒美感で満たされていく。
「おはよー、平坂さん!」
「おはよー、設楽さん。いつも、早いね」
手を振ると、手を振り返してくれる。やっぱり女神……。
そのまま並んで歩くけど、よく考えたら、先週の火曜日の、二人そろっての制服姿よりは、いくぶんマシに見えるかも? ダンジョン装備の方がセーラー服よりあたしには似合うし。
平坂さんって、ダンジョン装備も似合うんだよねぇ……。何着ても似合うというにしても、ダンジョン装備までとなると、その美しさは規格外過ぎる……。
ダンジョンの話をしながら、学校の手前の坂を上り始める。
「それでトムが……」
不意に、平坂さんの言葉が途切れて、どうしたのかなと思って、その視線の先を追った。
「あ……鈴木くん?」
校門の前に鈴木くんがいた。いや、いるのはいいんだけど。同じ高校で同じクラスだし。え、でもまだ7時前なんだけど?
平坂さんもびっくりしちゃったみたいだ。
あたしは手を振りながら鈴木くんに近づいた。鈴木くんもダンジョン装備だ。よく考えたら、制服姿じゃない、ダンジョン装備の鈴木くんを見るのは……あれ? 初めて? ゴブイチの時も、遠目には見たかもしれないけど……?
「鈴木くん、早いねー? あ、ダンジョン、行くの? じゃ、あたしたちと一緒にどうかな?」
でも、知らない仲じゃない。同じ中学だし、あたしの秘密も握ってる相手だ。あたしはそのまま自然と、鈴木くんを誘った。あ、でも、攻略情報の関係とかで、マズかったかな?
「タイムは?」
「ふぇ?」
返ってきた言葉は、予想外のものだった。何ソレ? 陸上か水泳の話? そういえば中学で陸上部だったな、鈴木くん。
「クリアタイム?」
「え、えっと、平坂さん?」
あたしは助けを求めるように平坂さんを見た。平坂さんはほんの少しだけ悲しそうな顔をしたような気がしたけど、すぐにうつむいて答えた。
「……7時48分です」
「……僕、45分に待ち合わせがあるから、今日は別行動で」
うわ、断ってきたよ⁉ 平坂さんと一緒のダンジョンとか、断る男子、いるの? あ、ここにいるけど⁉
……ん? あれ? 今、ちょっと、何か、変な感じがしたような?
まあ、でも、鈴木くんだし。魔石の分配とか、独り占めしたいのかも。最速の守銭奴だから。
あたしは少し考えれば気づけたはずの違和感に、この時は気づけなかったのだった。
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