106 鳳凰暦2020年5月4日 月曜日夕刻 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


『という訳で、またしても、ギルマスが連絡しとけって言ったから電話したよ』

「いつもごめんなさいね」

『いや、悪いの、ギルマスだから。ね、陵竜也って、いつ豚ダンクリアしたの?』

「……高3の1月、卒業まで1か月ちょっと、というところだった、かな」

『さすが同級生。よく覚えてる。でも、現日本ランク1位より2年以上早いのかぁ。いや、どんなアタッカーになるんだろうね? ま、もう学生カードだけどダンジョンカードもあるし、既にアタッカーではあるんだけど。当然、豚ダンのクリア、最年少記録……は、女の子の方か。こっちの子は誕生日まだだし、なんと15歳で豚ダンクリア、かぁ……あれ? 神殿は……』

「本当に、どんなアタッカーになるんでしょうね……」

『……とりあえず、ボス魔石だけの換金だから学校への報告、お願いね』

「はい。それでは」


 本所の阿部さんからの電話を私――宝蔵院麗子は、受話器を静かに置いて切った。


 ……またしても魔石の現金取引の疑い。しかも今度は平坂第5ダンジョン――通称、豚ダンジョンのボス魔石だ。


 豚ダンのボス魔石は、Dランク資格を得られる魔石だから……これは疑われても仕方がない。ひょっとして、わざとボス魔石だけ換金してるの? 私の仕事を増やすため? さすがに、そこまでは……いえ、アレなら、それもありそうな気がしてきたわね……。


 豚ダンのボス、オークウォリアーソードマジシャンは、10層格だが、3つ以上のマジックスキルを使う、スキルユーザーボスだ。それも小鬼ダンのボスのような、自分が強くなることで乗り越えられるようなモンスターに固有の特殊スキルではなく、簡易魔法文字を使うマジックスキルだ。


 だからこそ、犬ダンの後は神殿ダンジョンに挑み、ジョブを獲得して、ジョブスキルが使えるようになってから、豚ダンジョンなどの、相手がスキルユーザーとなるダンジョンへ挑むのが正規ルートだ。


 アレはまだ、スキル講習を受けていないはず。


 ……本当に、スキルもなしでそんな相手を倒した? 今までのことを考えると、倒したとも考えられるし、それでも状況的には現金取引も疑わざるを得ない。


 アレに、あいつが……私をどこまでも支えてくれたあいつが、いずれ負けてしまうと? あの、教室を半分に分けて三人組を列で組むように宣言して、そのくせ、自分だけは学級代表だから、附中の首席だからと、一番不利なペアはオレが引き受けると言って、1組の附中の転科組では最下位だった私とペアを組んでくれたあいつが――。


「あの、先輩、ちょっといいですか?」

「……何かあった、釘崎さん?」

「いえ、その。さっきまた、鈴木くん……あの、100万円の彼がここまで来てたんですけど」

「え、そうなの?」


 本所でボス魔石を換金したのに、わざわざ学校のギルドに顔を出した? 何をやってるの? やっぱり何か企んでる?

 もはやアレは100万円ではなく、中央本部で1億円の高校生と呼ばれているらしい。築地さんがそう言っていた。釘崎さんには教えてないが。


「それで、また、閃光轟音玉とか、爆裂玉とか、ポーション類とかをたくさん買って帰りました。それを報告しておこうと思って」

「マジックポーチをいくつも買っていくから、もうあまり驚かなくなってきたわね……」

「そうなんですよね……」


 ……でも、閃光轟音玉と爆裂玉、か。そこに、豚ダンボス攻略のヒントが隠されてる? そんなことが、あるのかしら?


 そもそも、倒したという仮定が成立するかどうかさえ、疑わしいのだ。


 私はとりあえず、学校への報告書をシンプルに作って提出することにしたのだった。





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