100 鳳凰暦2020年5月3日 日曜日午前 豚ダンジョン


 今日も朝6時から豚ダンに岡山さんと突入し、1時間で、1層を突破、次の1時間で2層を突破、次の1時間で3層の環濠集落に到着した。昨日より15分ほど、3層でのタイムが縮んだのは、たくさん9層格のオークを倒したからだろう。


 もちろん、今日もたくさん9層格のオークを狩るつもりだ。ついでにボスも。


 9時スタートで、環濠集落の外から、柵の中のオークへの魔法アタック。


 1周目は1か所あたり9分。なんとかもう少し、縮めたい。休憩とトレーニングという名の外にいるオーク狩りをして、10時から2周目をスタート。最初の東南部は9分だったけど、残りの3か所は8分で済ませて、合計33分。なかなかいい感じだ。もう一度、休憩とトレーニングをはさんで、11時から3周目のアタック。東南部を8分でクリアして、残りも8分ずつでクリア、合計32分だった。


 そのまま、無人の……無豚の? 環濠集落内を奥へと進み、11時35分、集落内中央の二重環濠へ到着。もちろん、すぐに爆裂玉を投げ込んだ。


「中にも環濠集落が……」

「二重環濠だな。ボスの居所を教えてくれてるとも言える」

「なるほどです」


 マジックスキルで処理して、中へ侵入し、トドメと魔石の回収を終えて、一番立派な、まあ、立派といっても、高床倉庫の巨大な感じでしかないけど、その建物の中へ入って、なぜかこの時代にそぐわない豪華な扉の前に立つ。


「……ここだけ、時代が違うのではありませんか?」

「僕もそう思うけど、まあ、ボス部屋だとわかりやすくていいかな……しかも、このボス部屋前のスペースは安全地帯という不思議」

「身の危険がせまっているというのに、ボスモンスターというのは、意外と暢気なものですね……」

「ま、今は準備したら、そのまま、アタックするけど」

「わたしが調べたところでは、豚ダンジョンはかなりクリアが難しいダンジョンだと書かれていましたが、鈴木さんの手にかかると、こうも簡単にボス部屋前までたどり着くのですね」

「お金、かかってるから……武器の換装とか、広島さんも、200万以上、遣ったよな? そういう苦労はしてると思う」

「岡山です。はい、それはそうだと思います。わたしが言いたいのは、鈴木さんはすごいということです」


 まっすぐこっちを見てくる眼鏡越しの瞳に、思わず僕は目をそらした。ちょっと自分の頬が熱い自覚がある。岡山さんは隠れ眼鏡美少女なんだから、こう、そういう感じなのはちょっと困る……。


「……まずは準備から、昨日の説明、覚えてる?」

「もちろんです」


 僕はマジックポーチからイヤーマフとサングラスを取り出して装着した。岡山さんも同じ格好になった。そこで、左手で左耳にかかってるイヤーマフを少しだけ浮かせる。岡山さんもそれに合わせて、右耳のイヤーマフを浮かせた。岡山さんのサングラスは眼鏡の上から装着できる大きなヤツだ。眼鏡オン眼鏡、最高。


「ここのボスは、スキル使いだからな。まずは、倒すためにスキルを封じる」

「はい」

「音と光はこれでかなり防げるとは思う。初めてだから慣れないかもしれない。その場合は僕が全力で倒すけど、できるなら、とにかく後ろに回り込んで殴り続けて」

「はい。頑張ります」


 イヤーマフを戻してうなずくと、岡山さんも同じようにうなずいた。


 そして、僕たちはボス部屋の扉を押し込み、突入した。


 ここのボスはオークウォリアーソードマジシャン。剣士なのか魔法使いなのかどっちなのかと思ったら、魔法剣士というオチがつく。


 迷わず、閃光轟音玉のぽっちを押し込み、投げつけた。


 簡易魔法文字が浮かび上がり始めようとしていたので、バフ系かデバフ系のスキルだろうとは思うけど、これで妨害はできたはず。眩しさの中心へ向けて、さらに爆裂玉をひとつ、ふたつ、と投げつけてやる。3つのタマタマタマで20万円が一瞬にして消えていく。


 光がおさまったので、イヤーマフを外しながらボスに接近、サングラスを外しながらボスの背後へ回り込む。視覚と聴覚を奪われ、爆発でのダメージを受けてボロボロなボスは、ブヒブヒブヒーと喚きながら、ブロードソードを滅茶苦茶に振り回してる。


 岡山さんも対応できてる。すごい。頑張ってる。


 二人で既にボロボロなボスを斬りつけ、殴りつけ、振り返ろうとするとその背中へと回り込み、また斬りつけ、殴りつける。


 さすがのHP量のようで、視覚の回復前に倒すことはできなかったものの、オークウォリアーソードマジシャンがすばやさバフの風系統第2階位スキル『ダブルアクセル』を使った、そのタイミングでドスンと決まった岡山さんのバックアタックによって後頭部をぶん殴られたオークウォリアーソードマジシャンは、そのまま倒れて、消えていった。すばやさバフは動きが遅めのオークには必須だから、最初に使われたら大変だっただろうな。


 岡山さんにさっと手を挙げて差し出すと、岡山さんは照れくさそうにその僕の手に自分の手をパチンと合わせた。ハイタッチで終わりと思っていたら、そのまま岡山さんが僕の手をきゅっと握ってきた。あれ、なんかおかしい……。


「……鈴木さんのお陰で、倒すのが難しいと言われている豚ダンジョンのボスが倒せました。こんなところまでたどり着けるなんて、本当に、鈴木さんにはどう感謝すればいいのか」

「まだまだ、もっと先へ、一緒に行こう、広島さん」

「……岡山です」


 ぷいっと顔をそらした岡山さんが僕の手を放した。そして、足元を見る。


「……これは?」

「マジックスキルスクロールだな。どれどれ」


 僕は拾って、スキルスクロールを確認する。巻物の表面に書かれている簡易魔法文字でだいたいのスキルは判別できる。


「……『ダブルアクセル』か。さっきボスが使った、というか、使おうとして使う前に倒れたスキルだな」


 まさか、使おうとしたからドロップしたとか言わないよな……。


「どのような効果があるのですか?」

「すばやさ1.3倍の自己バフスキルで、すばやく動けるようになる。効果時間は1時間程度」

「……お詳しいですね。まさか、これも既にご存知で使えるのですか?」

「まあ、そう、かな……」


 実は第3階位のすばやさ1.5倍バフスキル『トリプルアクセル』も使えるし、今ならたぶん第4階位のすばやさ2倍バフスキル『クワドラプル』のMPも足りそうだし、そっちも使えると思うけど、別にそれを自慢したりはしない。


「……契約では、これは鈴木さんの物ですが、鈴木さんがもう使えるスキルであるのなら、わたしが頂いて使うのでしょうか? あの、ほしいという訳ではないのですが」

「いや。岡山さんには、いずれ僕が教えるから問題ない。そうだな、すばやさ系なら酒田さんとかにはいいかもな」

「え? スキルは覚えられても他人には教えられないのではありませんか? そのようにスキルスクロールから身に付ける時に自然とそういう契約が結ばれるとガイダンスブックには……」

「虹色のマスタースキルスクロールっていうスキルスクロールで身に付けたスキルは教えられる。そうでないと、そもそもスキルを教える師匠になってる人はいつ誕生したんだって話になるし」

「……つまり鈴木さんは」

「あ、それ以上は秘密で」

「はい……」


 10層格のボス魔石、オークのピンクと白のマーブル模様の魔石だ。それを拾って、岡山さんに転移陣を指す。


「とりあえず、お昼ごはんにしようか」


 僕と岡山さんは転移陣に入って出口付近に転移し、目立たないところで武器を『フルリペア』してから外へ出た。


 お昼は犬ダンへ向かう途中の『酢豚の大将』に寄って食べた。本来はがっつり系だけど、岡山さんはミニプレートという少しだけ盛られたメニューを二つ選んで食べてた。それを見て僕は女の子だなぁと暢気に思った。





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