99 鳳凰暦2020年5月3日 日曜日朝 小鬼ダンジョン
「あ、おはよー、平坂さん!」
いつもの交差点に後ろ髪を引かれつつ、向かった角の潰れたタバコ屋の前で手を振る設楽を見て、私――平坂桃花は手を振り返します。
「おはよー、設楽さん。早いね?」
「もう、楽しみで楽しみで。平坂さんと朝から一緒だと思ったら、もうね」
「……ダンジョンでは、気を抜かないでね?」
「うん。それはもちろん」
設楽と並んで歩きます。本当に、この人は……。
設楽と会話しながら、学校へと向かいます。その最中もつい、彼の姿を探してしまいます。見つかりませんでしたけれど。
ひょっとしたら校門で……とも思いましたけれど、校門にも彼はいませんでした。遅れて姿を見せることもありません。
……設楽と一緒だと、彼とは何を話せばよいのかもわかりませんし、これでいいのかもしれません。
そして、7時に開門すると、つい、いつものクセで走り出してしまいました。
「え、走るの、平坂さん?」
設楽が疑問をぶつけてきましたけれど、そのまま走ります。ゆっくりしていると、昨日のタイムより遅くなって、浦上を待たせてしまうかもしれません。
「ついてきて、設楽さん」
「あ、うん」
投げかけられた疑問には答えなかったというのに、設楽の素直なこと。本当にこの人には、毒気を抜かれてしまいます。
そのまま、小鬼ダンへと突入し、さらに、そのまま走ります。
「ダンジョンでも走るの?」
「これは絶対に秘密だから。誰に対しても秘密だからね?」
「う、うん、ひ、秘密だね……」
何か設楽が勘違いしているような気はしますけれど、それはとりあえずどうでもいいのです。
「1層のゴブリンは交代で」
「了解!」
そういえば、設楽とのペアアタックは初めてです……。
……クリアタイムは7時48分。私のソロよりも10分近く速いタイムです。
ここまで設楽の攻撃力でタイムを縮めることができるとは思いませんでした。ただ、彼とならこれ以上に速いのです。才能は設楽が上かもしれませんけれど、今は、設楽より彼の方が強い、ということでしょう。
それにしても、設楽は規格外の強さです。
1層のゴブリンは最初から一撃必殺でしたけれど、2層は左右に分かれて分担すると、私よりも先に一撃で倒してしまいますし、3層では、私は盾でアーチの矢を受け止める役になり、倒すのは設楽です。3体とも。ソード2体は、二撃二殺ですけれど、一撃二殺とほぼ変わらないタイミングです。ボスは少し震えながらもやはり一撃で瞬殺でした。私がソロで倒した時はワルツに加えて追撃が必要でしたから、少し悔しいのです。
彼を除けば圧倒的な戦闘力の持ち主です。私のパーティーに入ってもらえて、本当に良かったと思います。
「朝からダンジョンも楽しいね、平坂さん!」
明るいそばかす笑顔でそう言う設楽を見て、この人は私が悔しいと思っているなどと、思ってもいないのだろうと、私はそっとため息を吐きました。
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