97 鳳凰暦2020年5月2日 土曜日午後 小鬼ダンジョン
午前中はトレーニングを間にはさんで小鬼ダンジョンを4周した私――矢崎絵美は、伊勢、宮島と合流して5人そろって学食でお昼を食べた。伊勢と宮島は6周したらしい。すごい。
ランナーズと言ってからかってくる人がいるけど、高千穂と伊勢が適当にあしらっていた。攻略情報を漏らさないためにも、それが一番いいらしい。どれだけ馬鹿にされても、実態としてはこっちがはるかに上だ。馬鹿にしてる方がいつか恥ずかしくなるだろう。
午後からも高千穂と酒田が私のサポートだ。
「うん。弓もいいね。3層のアーチの矢を妨害できるのは楽だし」
「頑張った」
初日に鈴木から、走りながら中てろと言われてた。無理難題だと思ってたが、やってみるとできた。驚いた。
「矢崎さんはすごく頑張ってるから。大丈夫、絶対にアタッカーになれるから」
伊勢や宮島だけでなく、高千穂と酒田も、やはり優しい。ほめてくれるし、励ましてもくれる。温かい。とにかくここは温かい。
「……なぜ、優しい?」
「あー、それ、聞く? あたしは、最初は、1組の矢崎さんと違って、4組の、附中普通科からの転科組の最下位だったからね……最初からクラスで邪魔者みたいにされてて、おまえなんかと組む訳ないだろ、みたいな感じで……だから、追放されて一人になったっていう、矢崎さんにすっごく共感して。あたしの勝手な思いだけどね」
「酒田、最下位に、見えない」
酒田は本当に強い。あっという間にゴブリンを倒していくし、ボスも瞬殺だった。それなのに、附中普通科の転科組で最下位だとか、信じられない。しかも、酒田も除け者にされてたらしい。
「あはは、今はそうかもね。鈴木先生に教わったから。ね、矢崎さんのこと、エミちゃんって、呼んでもいい? あたしはあぶみでいいよ?」
「いい。よろしく、あぶみ」
「うん。よろしくね、エミちゃん!」
「……また、この流れであたしだけ?」
「……あぶみ、高千穂は?」
「高千穂さんは尊敬する人の枠だからね!」
「尊敬?」
「そう。尊敬。高千穂さんはね、4組の学級代表で、みんなが勝手なこと言ってるのに、一生懸命、まとめようとして……みんなが嫌がるあたしのことも、ペアにしてくれたし、一緒にいてくれたし、応援してくれて……あ、ダメ。思い出したらちょっと泣く……」
「……あたしも学級代表なんて本当は名ばかりで、他の人が責任をどんどん押し付けるための理由にされてて、結局、クラスだとあたしもひとりぼっちだった。どんなに悩んでても、一緒にいてくれたのは酒田さんだけ。だからかな、矢崎さんのこと、あたし、ほっとけなくて」
「……ありがと」
少し形は違うかもしれない。でも、高千穂も、実は除け者にされてた。
岡山も、伊勢も、宮島も、酒田も、高千穂も、そして、私も。みんな除け者だった。除け者にされていた。
ここは除け者たちの集まり。だからこそ、優しくて、温かくて、本当に涙があふれそうに熱いところ。どうしてこんなに胸が熱い?
私は、みんなへの感謝を、絶対に、忘れない。
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