90 鳳凰暦2020年5月1日 金曜日放課後 小鬼ダンジョン


 とにかく、走る。それが鈴木のやり方のひとつらしい。


 私――矢崎絵美は、小鬼ダンジョンの行き止まりで、宮島がゆっくりと振るショートソードを躱してその向こうへと抜け、それと同時に射掛けられる伊勢からのゴムの鏃の付いた矢をスモールバックラーシールドで防ぐ、というトレーニングをしていた。


「……すごいな、矢崎さん。あたし、最初は何回か、この矢でやられたのに」

「伊勢さんよりもあたしの方が悲惨だったけど……」

「それは、まあ、あたしもこれで、一応は附中だし?」

「二人とも、すごく強い」

「そうかな? そう言われたら嬉しいかも」

「まぁ、照れるけど」


 この二人はもう、あの乙女の敵を倒せるのだ。強いと思う。


 それなのに、なぜ?


「なぜ、私を……」

「あー……それは、まぁ……」

「あの、矢崎さん。あたし、3組なんだけど、あたしのクラスは、学級代表がろくでもないヤツで、トップランカーの人が高校生の時にやってたからって言って、クラスの座席で、教室を半分に分けて3人組のパーティーに決めちゃったんだ」


 そう、宮島は語り出した。その話は、大変なものだった。


 全員が3人パーティーならともかく、伊勢と宮島だけ、2人のペアパーティーにされたらしい。それも、二人をサポートするより一人だけなんだから楽だろう、みたいに伊勢は言われたらしい。


 ひどい話だった。私だけでなく、伊勢や宮島も、クラスから除け者のように扱われていた。よく聞いたら、私も学年集会で佐原先生から聞かされた事件の、あの被害者が宮島だった。


「……だから、佐原先生から矢崎さんの話、聞いて、勝手にあたしと似てるって思って。なんか、矢崎さんの手伝いをしたら、あたしが鈴木くんやあみちゃんやヒロコちゃん、高千穂さん、それに伊勢さんにしてもらったことを返してるみたいな気になれるんだ。だから、遠慮しないで」

「あたしも、大津……3組の学級代表の馬鹿にいろいろやられて。だから、パーティーの追放って聞いて、絶対に許せないって思って。あたしと宮島さんも、3組から外されてたし……」


 ……この二人も、除け者にされてた。


 私だけ、じゃなかった。


 その後のトレーニングでは、涙で視界が歪んで、伊勢の矢が腕に中った。でも、不思議と痛くはなく、むしろ、どこか、温かいと思えた。





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