91 鳳凰暦2020年5月1日 金曜日夜 鈴木家


 玄関を開ける音が聞こえたのか、満面の笑みを浮かべて妹の奈津美がとたとたっと寄ってきた。


「おかえりぃ、ヒロねぇ! おにぃも!」


 ……そこは岡山さんではなく、僕が先なんじゃないかな、妹よ。なんで僕がオマケ?


「またお邪魔致しますね、奈津美ちゃん」

「うん! ヒロねぇが来てくれる日はおにぃの帰りも早いし、最高だね!」


 奈津美は岡山さんにまとわりついている。本当によく懐いたものだと思う。お兄ちゃんとしてはちょっとだけ寂しいな。


 あと、早く帰ってきて嬉しいと言ってくれるのはいいんだけど、僕の夜ダンは金策なので、まっすぐ帰ってきた今夜はゼロ判定なんだ。

 ここ最近の4月27日から30日までの4日間で、夜ダンの収入は計算上で325万4292円なんだけど、これが1日なくなるのを喜ばれるのは割と悲しい。


 ダンジョンアタッカーとして安全に活躍するために、平坂あたりで手に入るランクでは最高の地獄ダン産の武器は200万あれば買える。それをクランメンバーのみんなにそろえようと思えば、僕はクランリーダーとしてガッツリ稼いで、みんなのための武器の用意――もちろんニコニコ付きで――をしなければならない。そうしておかないと、鍛えるだけ鍛えて、卒業して、それじゃあ別のクランで頑張る、とか言われたら困る……。


 ……まあ、今はまだ小鬼ダンだから、レンタル武器で十分だけど。犬ダンを速攻でクリアさせて、豚ダンに行くと、どうしてもレンタル武器みたいな最低ランクだとキツいからな。


「ヒロねぇが毎日来てくれたら、おにぃも毎日帰ってくるのに……」

「すみません、奈津美ちゃん。さすがに毎日は……今は難しいです」

「……うん。ワガママだった。ごめんね、ヒロねぇ」

「あら、来たわねー。ヒロコちゃん、早くこっちに。手を洗ったら明日のおにぎり作るわよー」

「あ、お邪魔致します、お義母さま。すぐに行きますね」

「奈津美も手伝うー」


 岡山さんと奈津美が母に呼ばれて台所へ向かう。明日のお昼用の爆弾おにぎりを作るらしい。僕は自分の部屋へと向かいながら、少し首をかしげていた。


 ……今は、難しい、って、どういう意味? あと、やっぱり、おかあさま、の聞こえる感じが漢字2文字になってるような気がするな?





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