79 鳳凰暦2020年4月30日 木曜日朝 通学路


 いつも通りに家を出て、学校へと向かう。そうすると、交差点に立つ平坂さんが見えた。どう見てもダンジョン装備だけど?


 ……あれ? 今日は、約束、してた、かな?


 平坂さんがこっちを向いて、出た、ヒロインスマイル……眩しい。美少女過ぎて目に毒だ……。


「おはようございます」

「おはよう」


 そのまま歩いて行くと、平坂さんが横に並んだ。


「今日もいい天気ですね」

「うん」

「4月も終わりますけれど、魔石の納品や換金はお済みでしょうか? ついうっかりが、ヨモ大附属では許されない場合もありますから」

「うん。大丈夫」

「まあ、鈴木くんであれば、支払不能になどなることもないでしょうけれど」

「うん」

「……」

「……」

「……あ、そういえば、昨日、『日本八百万神聖国の歴史の中に見るダンジョンと現代のダンジョンの比較検討』という本を読み終えたのですけれど、そこに登場した……」

「ええっ! あれ、読んだのっ⁉」


 あれ、市立図書館の専門書・学術書のコーナーにあった本だけど! 平坂さんって、何読んでんだ⁉


「……あ、鈴木くんも読んだことがあるのですか?」

「あ、うん」


 平坂さんがあの本を市立図書館で……って、僕がまだ返却してないのに借りて読めるはず、ないな。あ、でも、平坂家なら、ああいう本を所蔵しててもおかしくは、ないな? 平坂家占有のダンジョンとかもある訳だし。


「私、古代の有馬洞乱や、大津洞乱とか、吉野洞乱で、『戦場の皇女』と呼ばれた笙不音讃良皇女の活躍を詳しく知って、すごく感動してしまいまして」

「あ、後に聖心持女帝になる皇女か。戦う力も、癒しの力も、焼き払う力もあったってスタンスであの本だと書かれてたな。うん。憧れる気持ちはわかる」


 あ、ちょっとテンション上がってきてしまった。


 笙不音讃良皇女は、鳳凰暦600年代に活躍した人物で、物理戦闘系のスキルに、治癒系のマジックスキル、さらには攻撃系のマジックスキルまで扱っていた可能性があるって、凄過ぎだからな。あと、名前が読めないよな。笙不音讃良皇女は『ふえならずさららのひめみこ』って読むし、聖心持女帝は『ひじりのこころもちしははみかど』って読むから。うん。読めないな。


 こっちの世界の歴史って、時代の推移とか、政治支配の形態とかのベースは前世の記憶にある歴史とそっくりなんだけど、ダンジョンが昔からある関係で、いろいろと違いもあっておもしろいんだよな。ちなみに洞乱というのはダンジョンブレイクスタンピードのことだと考えられてるし、おそらく正解だと思う。


 笙不音讃良皇女は3つの洞乱において、そのダンジョンへと突入し、スタンピードの主要因となった移動型ボスモンスターを始末したって書かれてた。本当だったらすごい。

 ゲームのDWだと考えたらレイドイベントのボスモンスターを倒したって話になる。浅いダンジョンなら時間をかければ可能性はあるけど、深いダンジョンでそれをやったのなら凄すぎる。

 まあ、名前が残ったのが皇女だけで、もっとたくさんの人が戦ったんだろうけど。


「あの本だと、ですか? ということは、他の本でも紹介されているのでしょうか?」

「『八百万神聖国正統記読解』だと、あくまでも癒しの力の持ち主って扱いだし、『ダンジョンムック このアタッカーがすごい! №03 古代新書記を読み解くことで分かる、歴史上もっとも偉大なダンジョンアタッカーは誰か』だと戦う力と焼き払う力のふたつで、笙不音讃良皇女をランク3位にあげてる。あと、その本だと、イメージ画像で白い狼と並んで立つ姿がすごくかっこいい」

「も、もう一度、本の名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

「『八百万神聖国正統記読解』と『ダンジョンムック このアタッカーがすごい! №03 古代新書記を読み解くことで分かる歴史上もっとも偉大なダンジョンアタッカーは誰か』だな。平坂さんの家って、ひょっとして、たくさん本があったりする?」

「はい! ございます! え、今度、平坂の本家の書庫をご覧になりますか? 必要ならお貸しすることもやぶさかではございませんけれど? 祖父は私に甘いので問題はないかと思います」

「いやいや、さすがにそれは悪いし、遠慮しとくな」


 ……やっぱり、ああいう本も家にあるんだ。さすが日本三大ダンジョン旧家のひとつ、平坂家。おそるべし。





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