77 鳳凰暦2020年4月29日 水曜日午後 小鬼ダンジョン
お昼の間は、岡山さんと二人で隠し部屋に籠って、ボス魔石を集めて、学食で食べてきたメンバーが午後から再集合して、また、小鬼ダン周回に入った。
まだ、伊勢さんと宮島さんがタイムアタックに慣れてないから、3時間で4周というところ。せめて2時間で3周、1周40分を実現させたい。あと、ボス戦は3つに分かれてボス魔石を増やしてる。
16時少し前に一度、1層の行き止まりでの短いトレーニングを挟む。それは、伊勢さんと宮島さんも、ほとんどフィアーの効果がなくなってきたらしいので、ボスとのペア戦闘に挑戦するための準備だ。高千穂さんや酒田さんからボス戦のアドバイスをもらえるようにミーティングも行う。
ボスについての話し合いが終わると、酒田さんが僕を見た。
「……そういえば、鈴木先生。スキル講習って、どのスキルがいいですかね?」
酒田さんが突然、思い出したかのようにそんなことを言い出した。
「ゴブリンの魔石100個って、もうかなり前に終わってたのに、すっかり忘れてたんですよね。だから、鈴木先生のアドバイスをもらってから、考えた方がいいよね、と思って」
「うーん……」
……正直なところ、この学校がゴブリンの魔石100個の納品という課題のクリアで行っているスキル講習は、第1階位の、しかも簡易魔法文字が一文字だけのスキルだ。ただし、一般の初心者アタッカーが申し込むと100万円以上もする講習だから、ヨモ大附属だけの特典とも言える。
「……正直、どうでもいいというか、第1階位の一文字スキルだし……それでもあえて選ぶんなら、光系統のサークルランプ、かな?」
「サークルランプ、ですか」
自分の周囲半径5メートルの円を照らす灯りのスキルだ。効果時間は1時間。簡易魔法文字を足で書く分、手で書くスキルよりちょっとだけ難しい。
「鈴木くん、それ、あたしたちは先輩から絶対にいらないって、言われてるスキルなんだけど?」
「岩戸さんの先輩の判断基準って、たぶん、ここ、なんだよな。だから、サークルランプをいらないって言える」
「どういうこと?」
「スキル選択の基準がここの、小鬼ダンのクリアに必要かどうかになってるって話」
「……なるほどです。小鬼ダンは明るいから、光系統のサークルランプは確かに必要ないですね、鈴木先生。でも、鈴木先生はその逆を考えてる……」
「そうだな。実際、外のダンジョンはここみたいに明るいとは限らないから。ガイダンスブックにあるスキル講習リストのスキルは、どれもこれも、どこかでスキルスクロールでも手に入れて、同系統の第2階位スキルを身に付ける機会があれば、いらない死にスキルになるし。ライトヒールを覚えたとして、将来ヒールを覚えたら、もういらないよな? それなら、外のダンジョンで必要になる可能性が一番高くて、第1階位でも十分な効果があって、本当の意味で役に立つのは、小鬼ダンでは絶対に必要がないサークルランプって、僕は考えるかな」
……本当は、そのサークルランプさえ、いらないんだけど。ガイダンスブックによると、スキル講習には秘密保持の魔法契約付きで、前世のゲーム知識でマスタースクロールを手に入れてもう既に使える僕からすると、他人に教えられなくなるってデメリットしかない。
まあ、僕の場合は、教えられなくなっても問題なさそうな、ライトヒールとかでもいいけど。
「また、鈴木くんにひとつ、常識を破壊された……」
「言われてみれば納得なのがトドメを刺される感じできつい。あたしらもう中学で済ませたし……」
高千穂さんと伊勢さんが二人そろって頭を抱えた。
……あ、そういえば。僕、ゴブリンの魔石、まだ100個、納品してないような気がする。
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