76 鳳凰暦2020年4月29日 水曜日お昼頃 学生食堂
昼食休憩で一度ダンジョンを出て、学食へとやってきたあたし――伊勢五十鈴は、みんなのチョイスを確認していた。
まず美舞だけど、今日は野菜炒め定食250円だ。美舞は栄養バランスとかにうるさいところがあるので、値段に関係なく、時々野菜炒め定食はチョイスしそうな気はする。
宮島さんはなかなか渋いところで、さば味噌煮定食400円だ。「この値段はちょっとドキドキかも」とか言いながら食券のボタンを押していたのはかわいかった。
酒田さんはこの辺では定番のチキン南蛮定食450円だ。今週中には一度、あたしも食べたいと考えてる至高の一品。
そして、あたしは、焼肉定食450円と酢豚定食450円で悩んで、今日は焼肉定食をチョイスした。特製ダレが食欲を増進する、香りも満足の定食で、ごはんとの相性が抜群にいい。
「五十鈴は、ほんと……もっと野菜、食べなさいよ」
「え、伊勢さん……そんな感じなんだ……」
……どういう訳か、食事の度に宮島さんからのリスペクトが減っている気がする。これ、美舞のせいなんじゃない? ここは話をそらすしかない。
「……鈴木くんはわかるけど、岡山さんも、あのままダンジョンなんだ」
「あー、ヒロちゃんは、鈴木先生のお母さんが、鈴木先生よりもワンサイズ小さい爆弾おにぎりを作ってくれてるんだよね」
「……え、そんなに鈴木家と親しい感じなんだ? あ、そういえば外泊って、前にちらっと聞いたような」
そう言ってから、あたしは、しまったと思ったが、ちょっと遅かった。美舞の表情が一瞬だけ曇ったのを見てしまった。ごめん、美舞……。
「前に駅前のファッションビルで、鈴木先生の妹ちゃんを間に挟んで、間接手繋ぎだったね。ヒロちゃん、妹ちゃんにすっごく懐かれて、ヒロねぇ、ヒロねぇって呼ばれてた」
「それって、親子みたいな感じなのかな?」
「小学校の高学年ぐらいだと思うんだよね。でも、ちょっと幼い感じで、あれはフリかな? お兄さんの鈴木先生とヒロちゃんの間をうまくいかせよう、みたいな感じはあったね」
酒田さん、宮島さん、そのくらいでその話題は……いや、あたしのせいだけど……。
「少なくとも、鈴木くんの親に気に入られてないと、外泊許可はないもん。おにぎりも」
「お母さん同士がね、すっごく意気投合したんだって」
「じゃあ、朝の、平坂さんって、どうなんだろう? あさイチで二人でダンジョンとか、フツーじゃないよ?」
「あれは気になるよね。附中の首席の人なんだよね、高千穂さん?」
「あ、モモ? そうね」
「附中首席? 平坂さんって、あの、噂の聖女さま?」
「男子がそんな風に言ってたこともあったけど、モモ本人は、別にそういうのは……」
「でも、あの美少女っぷりだと、モテたんだろうなぁ……」
「それは、そうね」
「でも、眼鏡を外したヒロちゃんなら!」
「ああ、うん、全然負けてない。あれはもうずるいよ。初めてお風呂で見た時はあたし、びっくりし過ぎて固まったんだよ……」
ああ、八百万の神様! どうか、この話題で美舞がこれ以上、傷つきませんように!
美舞だって、十分、美人なタイプだから! そこまで負けてないから!
……親友の恋心に気づいたら、なんか心労が増した気がする⁉ 口に出せない分、余計に辛いかも?
「あ、ランナーズがいるじゃん」
「アンタら、ダンジョンで走ると危ないよ~?」
突然、あたしたちに声をかけてきたのは、2組の瀬川佐央里とその友達の神田美紀だ。嘲るようににやついてる。
でも、別にしつこくからかうつもりはないみたいで、すぐに離れていった。
……気に喰わない子たちだけど、今は完全に話題を遮ってくれて助かった! あんな子たちに感謝する日がくるなんて。
それでも、鈴木くんに関する恋バナが途切れたことに、あたしはほっとしたのだった。
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