74 鳳凰暦2020年4月29日 水曜日朝 国立ヨモツ大学附属高等学校男子寮
1組の月城の部屋のドアの前で、休日出勤がこれで何回続いてるのかと士気の下がる学年部の先生方を見ながら、わし――佐原秀樹は、今日の休日出勤のきっかけとなった昨夜の電話を思い出していた。
『ウチの妹が言うことですから、何か企んでる可能性は高いんですが……』
そういう前置きで、2年担当の養護教諭である外村先生が説明してくれたのは、1年1組の矢崎絵美がパーティーから追放状態でソロをやらされて、それが辛くなって休んでいるというものだった。確かに矢崎は欠席していた。入院中の担任の冴羽先生の代わりに1組へ行ってるわしはそれを知っていた。まさか、パーティー追放などという馬鹿な真似をした者がいるとは考えてなかったが。
学年集会で大津たちによる宮島事件の話をしたばかりだというのに、そんなに愚かな生徒がいるのか、と思ったら、ほぼ同時期にあった事件で、学年集会よりも前の出来事だった。
学年部と生徒指導部にすぐ連絡を入れて、今朝は早めに出勤し、小鬼ダンジョンへの入場データや矢崎の納品・換金データを調べた。確かに、矢崎のデータには、裏付けとなる状況が残されていた。
4月24日までは、パーティーを組んでいた同じ1組の鹿島、会田、田尾と同時に入場し、同時に退場していた。しかし、4月25日と26日は一人で入場し、一人で退場していた。また、27日と欠席した28日は入場していない。今日も部屋から出ていないらしい。
おまけに、納品・換金の記録からは、パーティーメンバーの3人が矢崎のサポートを最低限しかしていなかったことも想像できた。
パーティーで行動していた期間の矢崎は毎回ゴブリンの魔石2個200円の納品・換金しかしていなかった。1組では断トツの最下位で、似たような数は3組と4組に数名のみ、つまり学年でも最低ランクだ。
それどころか、ソロになってからスモールバックラーシールドやショートボウまでレンタルして、魔石4個400円の納品・換金という、パーティーを組んでいた時よりも、ソロの方が魔石数は倍になるという有様。
いかに、3人の附中生が何もしていなかったか、ということがわかる。違反行為ではないが、最低限しかサポートをしないというのはかなり悪質だ。
そして、鹿島、会田、田尾は、矢崎が一人でダンジョンに出入りし始めた25日から、月城と同時に入場し、退場していた。事情を聞いてから処分は考えるが、もう真っ黒だ。黒過ぎる。
確認すべきは、この矢崎事件の首謀者は月城なのか、あとの3人なのか、どっちなのか、というところだろう。どっちでもない、という可能性もあるが。
わしのノックに応じて、ドアを開いた月城が、「あ……」と声を漏らして、目をそらした瞬間、これはもう話を聞くだけだとわかった。
部屋に入ってガイダンスブックを確認させると、月城は、自分が知っていることを正直に話した。
ただ、考えが足らず、矢崎が追い詰められる可能性には気づいてなかったようだった。
矢崎をソロにするのなら、矢崎と一緒にダンジョンに入ってその実力を確認したり、一緒にギルドへ行って現在の納品魔石数を確認したりという、矢崎がソロでやっていけるかどうか、確かめることは最低限するべきだった、そう伝えると「申し訳ありませんでした」と月城は頭を下げた。
わしではなく、矢崎に謝れ、そう告げて、寮の部屋での待機を命じた。
少なくとも、学年集会で大津たちの仕出かした宮島事件について話したことは、月城たちを正直にさせるという効果はあったらしい。同じタイミングで事件を起こしていたのなら、防ぐのは無理だっただろう。
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