69 鳳凰暦2020年4月28日 火曜日放課後 小鬼ダンジョン
こう、育成が順調なのは喜ばしい。これまで育ててきた岡山さんが指導者側で動けるのは大きい。高千穂さんと酒田さんもボスとのペア戦ができるようになったし、今日は僕と高千穂・酒田組で3周とボス6周――ボス戦だけはソロとペアに分かれて戦う――の予定。
新メンバーの伊勢さんと宮島さんはトレーニングと戦術理解や戦術実践を組み合わせて岡山さんが2周、担当してくれる。そっちを僕がやろうとしたら、わたしがやりますからって、取られた……。
まあ、岡山さんはもはや僕の申し子とも呼べるDW理解者ではある。指導は任せて問題ないと思う。
今日はインターバルトレーニング方式ダンジョンアタックを取り入れてみた。ジョグアンドダッシュを繰り返すトレーニングだ。
ジョギングよりはちょっと早いかな、というペースで走りつつ、ゴブリン発見と同時に先頭がダッシュして戦い、魔石を持って最後尾に並ぶ。これを繰り返す。ただし、伊勢・宮島組はペア戦闘だ。
驚いたのは酒田さんがいつの間にかラム走を身に付けてたこと。
やる気はあると思ってたけど、あれは女の子には結構怖いと思う。ゴブリンは最弱クラスのモンスターだけど、やっぱりモンスターであって、棍棒やナイフを持つ敵だからな。
見事にゴブリンの心臓をショートソードで貫く姿はもうRTAチャレンジができると思う。これができるようになって、高千穂さんとのペアでボス部屋前まで39分台に縮めたらしい。その時は1層の22匹のゴブリンは全部酒田さんが担当したとのこと。センスを感じる。逸材かも。
2層では僕と岡山さんはソロで、高千穂・伊勢組、酒田・宮島組に分かれてのペア。インターバルトレーニング方式はそのまま。ペアでのバックアタックは、高千穂さんと酒田さんが釣り役だ。
3層は僕がソロ、岡山・伊勢・宮島のトリオ、高千穂・酒田のペアにわかれて、3回ずつの戦闘でボス部屋前へ。
岡山さんがそのままトリオでボス部屋に入り、5分後に高千穂・酒田組、10分後の僕がボス戦を済ませて1層へ戻る。待ち時間に3層での狩りを追加するのは当然だ。
岡山さんたちがトレーニングしている間に、僕と高千穂さん、酒田さんで2周目もインターバルトレーニング方式。
「……名前、付けただけで、特にこれまでと変わってないような?」
「戦闘後に一度も止まらずに進んでるよね。そうですよね、鈴木先生?」
「そう。僕たちを止める者はいない」
ランナーズハイ、とでもいうのか、ボス部屋前以外では走り続けているので、なんかテンションがおかしい。
この3人なら、2層の終わりまではソロ、3層はソロとペアだ。最後のボス戦は二人が先に入って、僕が5分待つ。もちろん、待ち時間に3層魔石は追加するように走る。
1層の行き止まりで岡山さんたちと合流して、再び6人で3周目のインターバルトレーニング方式を始める。でも、途中、宮島さんのスタポタイムが一度入った。これは仕方がない。飲ませるのは伊勢さん。
ボス戦は僕が新メンバーを、と再び申し出るけど、岡山さんが断固拒否の姿勢で、新メンバーを連れてボス部屋へ入って行く。
「ボスのソロ戦って、あたしは、あとどれくらいでやれますか、鈴木先生?」
「え? 酒田さん⁉」
「うん、どうかな? フィアーさえ乗り越えれば、ペアでもソロでもそれほど変わらないとは思うけど、万が一を考えて、ペアで入ってソロに挑戦、それで5回のソロクリアができたら、くらいかな」
「……ヒロちゃんの時はそうだったんですか?」
「……そういわれてみれば、初日の終わり頃にはもうソロでやらせたような記憶が」
「ええ⁉ なんてことさせてるの⁉ 鈴木くん⁉」
「……高千穂さん、今からペアで入るけど、始めはソロでやらせてね」
「……いいけど、危ないと思ったら割り込むから」
「ありがとう、高千穂さん!」
このやる気が酒田さんを成長させてるな!
それから1層に戻って、トレーニングの行き止まりに合流。なんと、酒田さんはソロでボスを倒せたらしい。高千穂さんは心配でたまらなかったみたいだけど。
ラストは1層で時間ぎりぎりまで、伊勢さんと宮島さんの2匹釣りからのバックアタックのトレーニング。これもだいたいできるようになってきたから、明日は、もっと戦術の幅が広がるだろう。
早くここのボス魔石を集めて、ゴブリンより速い犬ダンのコボルトのスピードで訓練させたい。
この育てゲー、今のところ、かなり楽しい……。
ゲームでステータスの数値が伸びたり、育てた馬がG1を制したり、鍛えた野球チームが甲子園で優勝したりしても、今、この、目の前でアタッカーとして成長していく姿を見ているというリアルとは比べものにならない。
僕はたぶん、脳内麻薬がどばどば出てたんだと思う。
「明日は7時45分、小鬼ダン前に集合! 1日、小鬼ダンマラソンだから!」
そう言って僕は、女子寮に入っていく岡山さんたちに手を振って別れ、外の犬ダンへと走ったのだった。
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