65 鳳凰暦2020年4月28日 火曜日昼休み 学生食堂


 今日は、いつもと違う。そう思いながらあたし――伊勢五十鈴は、手を合わせた。


「いただきます」

「……いただきます。でも、五十鈴、いきなり、それ?」

「こういうのは勢いだから」


 あたしの目の前にはとんかつ定食500円がある。カツカレー500円と並ぶ、この学食での最高額のメニューだ。

 素うどん生活には二度と戻らない。これからは学食では好きなメニューを選ぶ。


 ……こういうの、背水の陣って言うんだっけ? なんか違うな? でも近いか?


 たかが500円、されど500円。それがヨモ大附属のダン科の生活。


「……あんまり、悩んでないみたいね」

「それは、美舞のお陰。先に悩んで、乗り越えてくれてたから、あたしは美舞を信じればいいって気づいたし」

「ちょ、そんないいもんじゃない……」


 美舞が照れてる。かわいい親友だと思う。

 実際、鈴木くんのやり方はあまりにもあたしが知ってるダンジョンアタックとは違い過ぎた。それでも、そこで、前に進めたのは、美舞が成長した姿をあたしに見せつけてくれたから。


 3層でも余裕の姿を見せる美舞。それに嬉しさと、同時にあせりを感じるあたし。


 美舞に引き離されたくない。それはたぶん、友情とか、尊敬とか、ついでに嫉妬とかも含めて、全部のあたしの本音。だから、まずはお昼のメニューで追いついておく。


 ……うーん! とんかつ、美味しい! でも、これを毎日は無理! そう考えたら、素うどんって優れたメニューなのかも? 毎日でも全然気にならなかった!


 そんなことを考えて、できるだけ鈴木くんのことは考えないようにした。

 それが何かから目をそらしているだけだとわかっていても、自分の常識を踏みにじられるように破壊されていくのはやっぱり少し怖かったのだ。





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