63 鳳凰暦2020年4月27日 月曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校女子寮
いつの間にか寮の部屋で寝ていた私――矢崎絵美は、ドアをノックする音で目を覚ました。
外村? そう思って上半身を起こしたところで――。
「矢崎さん、いる? 会田だけど……」
ドアの向こうから声をかけられた。外村ではなく、会田だった。
「あの、この前のこと、謝りたくて。開けてくれないかな?」
言葉にできない苛立ちが私の中にあった。
今日の学年集会で先生から話がなかったら……? 謝る? 今さら? そもそも、本当に悪いと思ってた……?
外村から教えられた魔石の数の話が頭に浮かぶ。1日2個の魔石は、1組ではおそらくもっとも少ないだろうと外村は言った。ダンジョン初心者である外部生へのサポートとして、本当に最低限のことしか、してくれなかった人たち。
「今日、ダンジョンに入ってなかったみたいだったから、心配になって……」
心配? 誰が? 誰を?
学年主任の佐原先生が学年集会で言った。他の生徒のダンジョンアタックを妨害する行為は、この学校では許されない行為である、と。
私がダンジョンに入らなかったことで会田が心配なのは、私じゃない。会田は自分の心配をしてるだけ。私のダンジョンアタックを妨害したと言われないように。
苛立ちだけが増していく。
私はこうなっても、ドアを開けて、会田に直接、文句を言うことすらできない。
ぎゅっと拳を握り、力を込める。
「……何してんの、あさみん?」
「あー……クミ、その……」
「ふざけるなって、言ったよね? 謝ったら済む? そういう話じゃないっしょ?」
「いや、でも……月城くんが……」
「聞いてみたら、月城のバカは、矢崎さんはもう魔石100個、終わってるって思ってたけどねー? 附中3人でサポってたらそりゃ終わってるって思うっしょ。実際はサボってたけど。それ、あさみん、月城のせいにするんだー?」
「それは、月城くんが勝手に勘違いしただけで……」
「月城が勘違いしてても、あさみんたちが一言、説明するだけっしょ。説明しなかったのは? なんで? どういうつもりだった?」
「……」
「ほら、何も言えないよねー。言える訳ないっしょ。1日ゴブ魔石2個とか。恥ずかしくて。それに、月城がいればあさみんたちも3層、行けるし。それが目的っしょ。あさみん、悪いけど、邪魔。あたし、矢崎さんに食事、届けに来たんだけど。そこ、どいて。それと、もうここに来んな」
足音が遠ざかり、改めてノックの音がする。
「矢崎さーん、外村だけどー」
私はベッドから下りて、ドアを開けた。
「……入っていい?」
こくりとうなずく。
外村が部屋の中に入って、夕食の載ったお盆を私の机の上に置いた。
「ありがと」
「いーえ。ちょっとは落ち着いた?」
「ありがと」
「……それ、あさみん……会田さんのこと?」
私はこくりとうなずく。
「まー、あたしは、あたしがムカついたから、やってることだけど。矢崎さんも自分で言えばすっきりするよ?」
「……苦手」
「言い返すのが? 文句を言うのが?」
「どっちも」
「そっかー」
外村は何の遠慮もなく、ごく自然に、私のベッドに腰を下ろした。
「何も言わずに、やり返す方法も、あることはあるけど。どうする?」
そういう方法があるなら、私だってやり返したい。
私は外村の提案に乗った。
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