60 鳳凰暦2020年4月27日 月曜日7時間目 国立ヨモツ大学附属高等学校体育館
ヨモ大附属高は40分の7時間授業が基本的な時間割だ。その7時間目の体育館に、1年生がクラスごとの2列で入場してくるのを見ながら、わし――佐原秀樹は、今、ここにいない4人の生徒を思い浮かべた。
今頃、それぞれに割り振られた寮内の反省室で、ここのライブ映像を見ているはずだ。
巻き込まれた形の小沢も含めて、こっちとしては、全員の名前を出さないが、それでも、わかる者には、わかる。特に3組の生徒には一目瞭然だ。学年集会を1時間目ではなく、7時間目に設定したのも、今日、一度に4人、欠席したことに気付かせるためなのだから。それと、土曜日の朝の寮で先生方を見た者にもわかるだろう。
厳密には欠席ではなく、寮の自室でWEB授業を視聴していたはずだ。ちゃんと見てたかどうかは、もはや個人の責任だ。そこまで面倒を見る気はない。
これから生徒たちに伝えるべき内容は――。
ひとつ、他の生徒のダンジョンアタックを妨害する行為があったこと。そして、それは、この学校では許されない行為であること。その再確認だ。もう少し、他のパーティーを脅して解散させようとした、という詳しい内容も含めて話すことになる。
ふたつ、今回の事件の確認のために質問した教師に対して、正直に答えず、嘘を並べて、ごまかそうとしたこと。そして、これがなければ、もっと軽い処分で済んでいたこと。だからもしも、似たような失敗をしてしまった時には、全てを正直に話すようにすることを伝えておく。また、今回、処分を受けている者の中には、直接はダンジョンアタックを妨害していないが、妨害した者を庇って嘘をついた者も含まれていることも付け加える。ここも今後は防ぎたい。
みっつ、今回の処分内容について、最後まで嘘をつき続け、ごまかそうとした者が4月25日の土曜日から5月4日の月曜日まで、10日間のダンジョン入場禁止処分となっていること。他の者も、それよりは短い期間だが、同様にダンジョン入場禁止処分となっていること。そして、それが、ダンジョンで稼ぐというこの学校の本質から考えて、とても重い処分であること。
最後に、毎年、これと似たような問題は起きていて、こうやって処分された後は、そういう問題が起きにくくなること。しかし、それは、一人ひとりが今回の出来事を真剣に受け止めてはじめて達成できるということ。そういうまとめでいこうと思う。
……この仕事をしていれば、人前に立って話す機会は多い。それでも、いつまでたっても、慣れることはない。それでも平然と、おまえらの前に立つことなど屁でもない、そう思い込む。
100人以上を前にして、この年齢になっても、変わらずに思う。
個性重視と言うのなら、学校ではなく家庭教師にしろ、と。一人の教師に、100人の子どもたちの個性を見ろ、などというのは、今から泳いで宇宙へ行け、というのと同じだ。
わしの仕事は集団の維持と管理。そのためなら、実質的に一人や二人の生徒が犠牲になったとしても、止むを得ない。
もちろん理由もなく犠牲にすることはないが。逆に言えば、集団をある程度正常に保っていれば、個性など、勝手に育つ。集団が正常なら、個性が潰される可能性は減るからだ。
今回、大津のしたことは、このヨモ大附属高ダン科という集団を破壊しかねない行動だ。わしら教師が生徒たちという集団を正常化しようとすれば、自然、大津は集団の中から淘汰される。それをいじめと呼ぶのだろうか。
わしはここで大津の名前を出すことはない。それでも、生徒たちはそれが大津のことだと、自分たちの世界の中で自然と結論付ける。
大津。自分のしたことは、しっかり自分で背負えよ。ダンジョン入場禁止処分の後で、おまえの周りに人がいるかどうかは、今までのおまえ次第だ。おそらく、あの二人以外はおらんだろうが。
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