56 鳳凰暦2020年4月26日 日曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校女子寮
夕食後、一度自分の部屋に戻ってから、あたし――高千穂美舞は、五十鈴と宮島さん、それと酒田さんにも声をかけて、岡山さんの部屋へ向かった。岡山さんは鈴木くんの家で早目の夕食を食べてきたらしくて、寮の食堂には来なかった。
ノックで部屋へと迎え入れてくれるけど、流石に5人というのはちょっと狭い。
「わぁ、ヒロちゃん! そのワンピースとカーディガン、似合ってる! カワイイ! 今日、買った服だよね? もう着たんだね!」
「あ、はい……買ったというか、買って頂いたというか……それと、着せられたというか……」
「さすが妹ちゃん、いい仕事だね……」
「妹……?」
酒田さんと岡山さんのやりとりに首をかしげながらつぶやいた五十鈴。
「いえ、その……妹の奈津美ちゃんが強引に、そうさせられてしまったのですが……家に帰ったらすぐに着替えさせられまして……そのまま……」
「おぉ……さすが、リア充の星……」
「……酒田さん、とりあえず、後で。まずはこっちの話を済ませようか」
これ以上、真っ赤な顔で、でも、とてつもなく嬉しそうな顔をしてる岡山さんを見ているのは……正直、ちょっと辛い……。
「あ、ごめんね、高千穂さん」
「すみません。では、こちらのお二人が、伊勢さんと宮島さんですか?」
「そう。こっちが五十鈴……伊勢五十鈴で、あたしの親友で3組。同じく3組で、五十鈴のペアの宮島さん」
「急に話を持ち掛けてごめん」
「よろしくお願いします、宮島です」
「いいえ。問題ありません。ただ、お二人が求めているヘルプについては、こちらの書類に記入してもらわなければならないので、それでも、よろしいのであれば、明日、昼休みに鈴木さんとの顔合わせをして、放課後にはダンジョンへ一緒に、とのことでした。あの、よく読んで下さいね?」
そう言って、岡山さんが二人に差し出したのは、クランの加入申込と、分配契約と、そして、ニコニコ鈴木Eローンの、三枚、三種類の紙だった。
「……美舞? 鈴木って、2組の鈴木が、そんなに頼りになるとは思えないんだけど? あと、このニコニコ……」
「違うの。その2組の、じゃない方の鈴木じゃなくて、あの、あっちの鈴木くんなの」
「は?」
「だからね、ヘルプしてくれるのは、2組じゃなくて、1組の鈴木くんなの」
「……嘘、だろ?」
「伊勢さん? その、1組の鈴木くんというのは……」
「モミちゃん。鈴木先生を信じてついて行けば間違いないから。あたしは迷わず署名したからね!」
「えっと、鈴木先生?」
「酒田さん、ちょっと話がややこしくなるから、鈴木くんの先生呼びはいったんストップで。先生ではなく、鈴木くんはウチの学校の生徒で、1組で、学年首席の鈴木くん。五十鈴も、驚いてないで、もう信じて、お願い」
「……鈴木さんを信じない、頼らない、というのであれば、その紙はここに置いて、明日からもお二人で頑張ればよいと思います」
そう言った岡山さんは、にこやかに微笑んでいるようでいて、目はちっとも笑ってなかった。そして、それを見た五十鈴と宮島さんが固まった。そこに、あたしは岡山さんの鈴木くんに対する想いの強さを感じてしまう。
「ただ、その紙に書くべきことを書けば、鈴木さんは必ず、助けて下さいます。わたしは少なくとも、鈴木さんと道を違える気はございません。ヨモ大附属に在学している間も、卒業してからも、鈴木さんのクランやパーティーで、一緒にアタッカーとしてやっていく覚悟です。よく読んで、よく考えて、書くべきことをそこに書いて下さいね?」
「うん。あたしもヒロちゃんと同じ考えだね。高千穂さんは?」
「……あたしも、そうするつもり。ね、五十鈴。あたしにできるのはここまで。ここから先は、選ぶのは五十鈴と宮島さんだから」
あたしは、五十鈴の目をまっすぐに見つめた。今が、運命の分かれ道だと、そう伝わるように、真剣に大切な親友を思って。
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