55 鳳凰暦2020年4月26日 日曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校女子寮
勉強をしていたら、こんこんこん、とドアをノックする音がした。私――矢崎絵美は、手を止めて立ち上がるとドアへと向かい、開いた。
「……ノックされても、いきなり開けない方がいいと思うよー?」
外村だった。私は首をかしげた。
「いや、入れてもらってもいいかな?」
外村には特に思うところはない。どちらかといえば、今朝、心配してくれたような気がしたくらいだ。私はうなずいて、一歩下がった。外村が入ってきて、ドアを閉めた。
「……ベッド、座っていい?」
こくりとうなずいて、私は椅子に座る。
「いきなりで悪いとは思うんだけどね、矢崎さん、なんでソロに? あさみん……会田さんたちと同じパーティーじゃなかったっけ?」
説明とかは、私はあまり得意ではない。人付き合いも。
「……月城」
「月城? あいつも関係してるんだね。ごめん、もうちょっと詳しく聞いてもいいかな?」
「設楽、見て、私と、交代。月城が」
「……設楽さん? 月城が設楽さんを見て、矢崎さんとパーティーを交代したってこと?」
「月城、設楽に、負けたくない」
「……ああ、設楽さんのところは3層に入ってるか。それを見て月城があせったってとこかな。それで交代って……交代じゃないね、あいつ、ソロなんだから。矢崎さんを追い出したってこと?」
「……よく、わからない」
「月城が追い出したかどうかは、わからないってことかな? それとも、他のメンバーが追い出した?」
「どっちも、わからない。いきなり、だった」
「いつ?」
「昨日、朝」
「……いくらなんでも、勝手過ぎるっしょ。まあ、そもそも附中3人で組もうってところがどうかとは思うけど……そこは推薦のバカどもにも責任はあるし。矢崎さんは、その交代に、納得、してる?」
「……してない」
「うん。そうだよねー。それでいいよ」
「でも、仲良く、できてなかった」
「……パーティーってのは、協力できれば、仲良くしてなくてもいいからね。そこを言い出したらキリがないっしょ。それにしてもムカツクなー。矢崎さんは、あいつら、許すの?」
「……わからない」
「そっか。でも、たぶんだけど、明日、学年集会があるから、どっかで謝りに来ると思う。簡単に許されるようなことじゃないし、少なくともあたしはムカついたから、許してほしくないけど、矢崎さんが決めることだよね。まあ、許したくないと思ったら、さっきみたいに簡単にドアは開けないようにした方がいいよ」
「……考えとく」
「ソロ、大変じゃない? あいつらに文句言っていいと思うけどなー?」
「今の方が、魔石、増えた」
「え? それ、ありえないっしょ? なんで?」
「前は2個。今は4個だから、増えた」
「……前は2個って、それ、均等割りで?」
私はこくりとうなずいた。
「4人で8個……ゴブリン5体ですぐ折り返したら帰りの分入れてだいたい8だから、そんな感じか。あいつら、サイっアクなことしてる……」
「2個って、最悪?」
「……それぞれのパーティー事情はあるから、違いはあると思うけど、あたしが外部生の初心者3人と組んでた時は、少なくとも一人10個以上、毎日分配されてた」
その、あまりの多さに驚いた。一人10個以上? そんなに?
「たぶん、矢崎さん、1組で一番、魔石の納品数が少ないと思う。もう、1組はほとんどの人が100個を超えて、スキル講習を申し込んでるっしょ。このままだと、矢崎さんとクラスで組める人が……」
「でも、制限回数……」
「そうだ、ね。あいつら、ルールは守ってる。それで、本当に最低限だけ、やったんだろうね。不親切過ぎ。ね、例えば、4人で交代して5回ずつ、制限回数まで戦って、それから戻れば、帰りがゼロでも、均等割りは5個になるっしょ? それなのに2個って、行きに矢崎さんだけ、5回、戦わせたパターンかな? 帰りは残りの3人が交代で1回ずつ?」
私はこくりとうなずいた。私にも外村の言ってることが理解できた。確かに、最低限、私の面倒は見てくれたのかもしれない。本当に最低限で。そして、とても不親切だ。
私と同じだけ、戦ってくれてたら、確かに魔石は1日5個以上だ。私は私が戦った分だけ、魔石を手にすることができた。
では、なぜ2個になったか。自分たちの制限回数を残しておいて、私をダンジョンの外に送ったら、そこからダンジョンに戻って、今度は3人でもっとたくさん、分配するため。
「ひどい……」
「うん。だから、嫌だと思ったら、あいつらなんて、許さなくていいからね」
その外村の言葉は、私の中に、すとんと落ちて、綺麗に溶けた。
ただ、いろいろと教えてくれた外村には感謝してるが、私の心はさらにざくりと削れていったのだった。
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