54 鳳凰暦2020年4月26日 日曜日夕刻 平坂駅前ファッションビル『フラットスロープ』
二日続けて夕方には駅前に繰り出し、あたし――高千穂美舞は、今日はケーキを『sweets heaven fall』で食べた。美味しくて泣きそうだった。酒田さんはふたつ食べた。それじゃ、あれだけ走ってても太るんじゃないの?
それから、二人で服でも見てみようと、ファッションビルの中をうろうろと歩いて、歩くだけに留まらず、二人で服を買った。買ってしまった。それはダンジョンカードに十分なお金があるから。
……やってしまった。そう思って、でも、すぐに……まあ、お金は、あるし、と、思ってしまうあたしがいる。
あたし、このままで大丈夫なの? 1年生の段階でのこんな話、先輩たちから聞いたことないけど⁉ せいぜいDJバーガーとかで駄弁ってるとか、そんな話だったような?
「あ、あれ? 見て、高千穂さん。あれって、ヒロちゃんと鈴木先生だよね?」
「えっ?」
酒田さんの言葉であたしは現実に戻ってきた。酒田さんが示す先に、岡山さんと、鈴木くんと、二人の間に女の子がいて、その女の子が二人と手を繋いでる。親子? でも……。
「……間接キスの遠い遠い遠ーい親戚の、間接手繋ぎ?」
「何、それ……」
「ヒロちゃん、順番すっ飛ばして、子連れに……」
「状況から考えて、迷子を助けたとかじゃないなら真ん中の子は鈴木くんの妹とかでしょ」
「あ、納得だね。たぶん迷子を助けたりはしてないね。おーい!」
酒田さんは遠慮なく、鈴木くんたちへ向けて手を振った。それはたぶん、デートではないのなら、邪魔しても問題ない、という判断だったと思う。妹連れのデートという可能性はないの? そう思ったら、胸の奥にチクリとした痛みが走る。もう、目をそらせない棘が、あたしの中に、ある。
「あ、あぶみさんと高千穂さん」
「ヒロねぇ。友達?」
「はい。二人には学校で仲良くして頂いてます」
……岡山さん。その子、どう見ても小学生だけど、丁寧語なの? いえ、丁寧語でも別にいいけど。
よく見ると、鈴木くんは妹さんと思われる女の子と繋いでない方の手で、3つくらい袋を持ってる。どれもそこそこ高いブランドの袋だ。女性向けの。
あたしがそれを見つめていると、それに気づいた妹さんがにやりと笑った。
「ヒロねぇと奈津美の服、おにぃに貢がせた! どう、偉い?」
「おお、偉いね! 妹の鑑! って、鈴木先生の妹さんであってるよね?」
「奈津美はおにぃの妹だよ? こんにちは、ヒロねぇの友達おねぇーさん。でも、なんでおにぃが先生?」
「鈴木先生はね、説明がわかりやすくて説得力があって強いんだよね。だから先生」
「へー。すごいんだね、おにぃのくせに」
「あ、高千穂さん、鈴木先生もいるし、あの話を今、先にしといたら?」
「あの話、ですか?」
「実は……」
……こんなところでする話でもないけど。でも、少しでも、突き刺さる棘を忘れられる話題の方がいい。
そう思いながら、あたしは五十鈴と宮島さんのヘルプを鈴木くんに頼んだ。鈴木くんはゆっくりとうなずいて、了解の意思を示し、にこりと笑った。
……ああ! あれは絶対に借金させる気だ! そういう悪い顔だった! ごめん、五十鈴! 親友だから、あたしもニコニコ鈴木Eローン被害者の会にもう先に入ってるから⁉ だから許して!
「広島さんに書類は作って預けとく」
「……岡山です」
やっぱりそうだった! ごめん、五十鈴!
そう思いながら、あたしは、五十鈴に対して、自分が悪いとは思っても、鈴木くんは悪いとは思っていない自分がいることに気づいて……そっと奥歯を噛みしめるように力を入れた。
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