53 鳳凰暦2020年4月26日 日曜日午後 国立ヨモツ大学附属高等学校1年職員室
二日連続で休日に呼び出された4組担任の伊集院先生の表情が不満な顔から一瞬で驚愕の表情に変化するのをわし――佐原秀樹はため息とともに見つめていた。気持ちはわかる。
「……佐原先生、今年の3年に、犬ダンクリアしたのって、いましたっけ?」
「残念ながら、今年の3年ではまだ聞かないな。夏休みのどこかのクランでのインターンまでは今年も無理だろうと3年の岡村先生からは聞いとる」
「……先生の教え子の、陵、あれは、いつ、犬ダンをクリアしたか、覚えてますか?」
「陵は夏休みに入ってから犬ダンに入り始めて、確か、後期の最初ぐらいか。10月の最初の日曜日にクリアしたはずだ」
「10月……なんで日本ランク1位が高校生の時よりも、半年も早く犬ダンがクリアできるんすか。冴羽も入院しちまったし、今年はいったい、何が起きてるんすか。あいつは……鈴木は、いったい何モンですか?」
「そりゃ、わしだって聞きたいが、誰も答えちゃくれんだろう」
……冴羽は、病院で、鈴木は北モーニン共和国のスパイなんじゃないか、と言ったらしいが。第三階位のマジックスキルに焼かれたとも言った。
あの国は孤児や貧しい家庭の子どもを集めて、ダンジョンに放り込んで、生き残った者をダンジョンのさらに奥へと次々に放り込んで、そうやって鍛えたスパイを各国に送り込んでるって噂があるからな。確かに鈴木の異常さは、そうでもないと説明がつかん。
だが、それと同時に、鈴木がスパイだと仮定すると、小鬼ダンで見つけた攻略情報を売りゃせんだろうし、そもそも、こんな目立つ真似をするはずがないだろう。
現日本ランク1位のあの大馬鹿もんが打ち立てた高校時代の記録を次々と塗り替えるなどという、まるでいつかおれが1位になるとでも宣言してるかのような真似を。
「……これ、魔石の現金取引だと思います?」
「いや。鈴木が実力でクリアしたと思う」
「接待戦闘の疑いは……実はこの週末、鈴木とは別行動なのに、高千穂と酒田はガンガン3層の魔石を換金してました。もう1組の平坂たちのグループに近いか、月城なんかは置き去りでしたよ。接待戦闘だと、鈴木がいなくなったら、できないはずですよね? あいつ、何したんすか?」
「きっちり、鍛えたんだろうな。それしかない」
「……それで、鈴木本人は、1層のゴブリンの魔石、まだ100個、納品してないんすよ? スキル講習の申し込みがまだの1組の外部のヤツって、鈴木ともう一人だけだったんです。もう完全に有り得ないすよ」
「常識を変えるヤツが出る時、世の中が変わるらしい。ま、そんな大きな世界の動きは、しがない教師のわしには関係ないが」
「鈴木は、ブレイクスルーを起こすと、先生は思ってるんすか?」
「さあ、どうなるか……結果だけ見ると、無茶をしてるとしか、思えん。これを続けたら、世の中を変える前に……」
わたしは窓の外へと視線をそらした。
「短い期間でも、教え子は教え子。死んでほしくはないんだが……」
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