34 鳳凰暦2020年4月24日 金曜日放課後 国立ヨモツ大学附属高等学校ロッカー棟前
ロッカー棟の中でダンジョン入りの準備を済ませて、あたし――伊勢五十鈴は、ロッカー棟の前でパーティーを組んでいるペアの宮島紅葉さんを待っていた。いつも、ここで待ち合わせて、小鬼ダンへと向かう。
ところが今日は、宮島さんが遅れてるみたいで、まだ来ていない。
5分くらいは、遅いな、どうしたんだろう、ぐらいに思って気にしなかった。
でも、10分、待った。まだ来ない。さすがに、どうしたもんか、と考えを巡らせる。
ロッカー棟内だとすると、宮島さんとはロッカールームが別なので、あたしのダンジョンカードでは出入りできない。確認不能。
ロッカー棟じゃない場合、あたしが知らない間に先生に呼び出されたか、何か怪我でもして保健室へ行ったか。探し回るとしても、入れ違いになるリスクがある。
こういう時、スマホが便利なんだけど、基本、ヨモ大附属では学校に預けっぱなしで、修学旅行のような学校行事の時とか、帰省の前日とかに頼めば返してもらえる仕組みだ。ちなみに帰省の日でなく前日に返してもらえるのは充電のためだったりする。
誰かに伝言を頼んで探して回るとしても、もうほとんどの人がダンジョンへ向かった後だ。
……結局、待つしかないけど。
それからさらに10分。
ロッカー棟ではなく、校舎の方から、制服のままの宮島さんがやってきた。
真面目な人だというのはわかっているから、理由はあるんだろうけど、さすがに少しは腹が立つ。でも、宮島さんの表情がおかしいので、体調が悪かったのかも、と思って何も言わなかった。これが結果的には良かった。
「宮島さん、体調、悪そうだけど、大丈夫なの?」
「……あの、伊勢さん。その……」
「あー、無理なら、寮に帰って休もう。寮費と生徒会費の分はなんとかなってるし、体調悪い時にダンジョンに入っても……」
「あの!」
宮島さんがあたしの言葉を遮った。こっちを見ていない。たぶん、あたしの足元らへんを見ているかもしれない。
「あたしと、伊勢さんのパーティーを解消して、あたし、ソロでやろうと思って。だから、これからはもう、別々で活動するから」
「え? 何、それ?」
「伊勢さんの足を引っ張ってる自分が嫌だし、伊勢さんが悩んでる顔を見るのも嫌だし、もう、一人になりたいから、あたし、ソロでやるから」
そう言った宮島さんが、どうも、泣いてるような気がした。あたしは宮島さんに近づいて肩を掴み、その俯いた顔を覗き込んだ。宮島さんはぐちゃぐちゃに泣いていた。
……あたしの悩んでる顔が、この子をここまで泣かせたのかな。
何かがグサリと刺さった気がした。
「……ごめん。あたしがそんな顔して、宮島さんを傷つけてたんだ」
「ち、ちがっ……伊勢さんは、悪くないっ……」
「ほんと、ごめん」
「ちが、ちがうんです……そうじゃ、ない、そうじゃなくて……」
「とりあえず、今日は寮に戻ろ? それでゆっくり話そ?」
「伊勢さんは、悪くないっ……」
あたしは宮島さんの腕を引いて、軽く背中を撫でながら、寮へと歩いた。あたしはダンジョン装備のままだったけど、今はそれどころじゃなかった。
そして、宮島さんの部屋で、何があったか、話を聞いた。それを聞いてあたしはすぐに寮監の先生のところへ向かった。絶対に許さない。そう思った。
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