33 鳳凰暦2020年4月24日 金曜日午後 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


 電話が鳴った。スマホ全盛のこの時代に、古めかしい固定電話が消えてなくならないのはなぜだろうか、などと、私――宝蔵院麗子はそんなことを考えながら電話を取った。


「はい、ダンジョンアタッカーズギルド平坂支部、ヨモツ大学附属内出張所、宝蔵院でございます」

『わしだ、宝蔵院。佐原だ』

「ああ、先生。どうしました? あ、ひょっとして」

『バスタードソードの件、さっき主任級の会議が終わった。校長決裁で大学へ出す。ただ、本数は昨日話した時よりも減って、50本だ』

「……50本、ですね。いえ、先生、ありがとうございました。助かりました」


 ……ヨモ大附属で50本なら、残り二附属も合わせて、150本は捌ける。もし、アレが次の換金でバスタードソードを出さなかったとしても、30本程度なら、どこかの在庫を集めればいい。

 新制度の立ち上げと1200万の売り上げなら、この前の不正疑惑を払拭して余りある実績にもなる。私を陥れようとした中央本部の誰かさんにはいい意趣返しとなるだろう。


 間に入って骨を折ってくれた恩師には感謝しかない。


 そう思って、ここに赴任してからろくに恩師の顔を見に行かなかった自分を思い出し、私は恥ずかしく思った。なんて恩知らずなんだ、私は……。


『……ただし、ウチのレンタルの基準はかなり厳しくなったからな、来年の買取は期待するな』

「そう、ですか。ちなみに、その基準は……」

『ゴブリンとの単独戦闘、ショートソードでの5回連続の一撃確殺。希望者に誰か教員を付き添わせてダンジョンへ行けばすぐ確認できる。昼休みにちょっと、というぐらいだ。だが、そこまで剣の扱いがうまいヤツはなかなかおらんだろう?』

「……難しい、ですね。ただ、それだけの実力を求めるのは納得できます」

『そっちの、レンタルに関するダンジョンカードの仕様変更、いつ、終わる?』

「急ぎます。見通しが立ったら、連絡しますので」

『わかった。まあ、これからは、もう少し、こっちにも顔、出せや』

「はい。先生、ありがとうございました。本当に助かります」

『おう。またな』


 電話が切れた。飾らない恩師の言葉が胸に温かかった。


 ……そうだ、今度、昼休みであの子を見かけたら、バスタードソードがそのうちレンタルできるようになると、こっそり教えてあげよう。


 私は、バスタードソードをレンタル武器にするというアイデアを思いつかせてくれたお下げの女の子のことを考えて、思わず微笑んだのだった。





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