30 鳳凰暦2020年4月23日 木曜日放課後 小鬼ダンジョン 隠し部屋


 今日のわたし――岡山広子は、鈴木さんと隠し部屋です。また、高千穂さんとあぶみさんと一緒に動くのではないかと思っていましたが、鈴木さんと隠し部屋です。二人には申し訳ないのですが、わたしは嬉しいです。


「岡山さんは、こっちでよかった? 3層の方がたぶん、今の岡山さんならここよりももっと稼げると思うけど。こっちだとボス魔石が中心で、待ち時間も多くて、だいたい6万円が半分で3万円くらいにしかならないし……それに、この魔石は換金せずにクランメンバー用に残しておくつもりだから実質ゼロ円で……実質ゼロ円って、支払う方ならいいけど、受け取る方なら最低な言葉だな……」

「こっちがいいです。こっちでよかったです。ダンジョンでは鈴木さんが一緒だと安心ですし、落ち着きますし、嬉しいです。月曜日の換金でゆとりはありますので、実質ゼロ円でも何の問題もございません」

「いや、でも、一撃二殺もかなり安定してきたし、たぶん、ポーションなしで3層で狩り続けても放課後の時間なら余裕だし、ソードとアーチの3匹をソロで軽く60回はできると思うから単純計算で9万円は超えて稼げるよな? 確かに月曜日の換金でもう4月末の退学は防げたけど、お金はいくらあっても問題ないというか、足りないというか……」

「確かにお金は大事です。退学寸前までになったわたしには、そのことは十分にわかっています。ですが、わたしは鈴木さんの唯一のパーティーメンバーですし、鈴木さんのためのこの隠し部屋の鍵ですし、鈴木さんのクランにも18歳と同時に加入いたしますし、卒業まではもちろん、卒業後もずっとずっと、パーティーメンバーとして、クランメンバーとして、鈴木さんと一緒にダンジョンに入りたいと心から、心からわたしは思っています」


 ……これはもう告白も同然だと思うのです。かなり勇気を出して言いました。

 ええ、これはもはや告白にしか聞こえないと思うのです。


 これによく似たセリフがある『ドキ☆ラブ』は本当に最高の参考書ではないかとわたしは思うのです。


 ここまで言えばもうわたしの気持ちはわかってもらえています、きっと。ええ、きっと、伝わっていると思います。そう信じています。『ドキ☆ラブ』のヒロインの階梨乃亜さんのように、好き、という言葉がなくても、これは告白だと、そう伝わるはずなのです。


 ……そんな遠回しに匂わせるのではない、はっきり好きだと言えばいい、と思われるかもしれませんが、それが、その、好き、の2文字は、なかなかどうして、これは本当に、どういう訳か、言えないのです。


 でも、これだけ好きだと思われるような言葉をこれでもかと並べたのです。大丈夫なはずです。

 ですが。

 そのはずなのですが……。


 どうして、この会話は、魔法少女になれるステッキを振り回して鈴木さんがぽいぽいと投げるピンポン玉を叩きながら行われているのでしょうか⁉

 何か、いろいろと台無しのような気がします⁉ 『ドキ☆ラブ』のあのセリフにはこんな場面はありませんでしたよね⁉


「そこまで広島さんが言うのなら、集めた魔石はクランのために使わせてもらうな。ありがとう」

「……岡山です」


 ……伝わって、ますよ、ね?





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