28 鳳凰暦2020年4月23日 木曜日放課後 小鬼ダンジョン3層
今日は昨日に続いての、3層入り。あたし――設楽真鈴がリーダー権限で割と強引にやってるけど、メンバーのみんなはついてきてくれてる。嬉しい。
たぶん、附中生なしのパーティーだと、3層進出はあたしたちが一番だと思う。それを、メンバーのみんなもわかってて、誇りに思ってる、はず。
今日も、クランの他のパーティーよりも先にダンジョンに入って、3層を目指した。最初はちょっとゴブリンがいなくて、最短ルートなのに19回の戦闘で2層へ。2層は13回、26匹のゴメイとの戦闘をきっちりとこなして、3層へ。
平坂方式では、次のルートを覚えるのと戦闘訓練を合わせるから、今日はボス部屋までの9回の戦闘をこなして、帰ってくる予定。
ボス戦に興味はあるけど、平坂さんからも、外村さんからもまだダメだと言われてる。
なんか、すっごい叫び声でやられちゃうらしい。クランとしては、選抜パーティーで一度ボス戦を経験してから、全体へ情報を伝えて、挑んでいくつもりみたい。
3層での戦闘は昨日も練習したから、4人で無難に終わらせることができる。
でも、今日の3層での最初の戦闘を終えたタイミングで、前から二人の女子生徒がやってきた。
あたしたちの横を歩いて通り過ぎる時に、会釈をしてくれたので――。
「こんにちわー」
あたしはにこやかにあいさつした。でも、なんかびっくりした顔をされた。なんで?
そうしたらもう一回会釈をして、そのまま行っちゃった。部活的感覚だと、あいさつにはあいさつを返してほしいところだけど、まあ、会釈もあいさつのひとつかもしれない。
「……設楽、おまえ、ガイダンスブック、ちゃんと読め」
「あいさつじゃないだろ、ここは。あっちみたいに会釈を返せばよかったんだよ」
「え、そうなの?」
「マリンちゃんは、あれだよね、そういうところ、直そうね」
……え? あいさつ、ダメだった? うわー、ガイダンスブックの何ページの話? パーティーメンバーからの総攻撃にあたしはタジタジだ! こういう時は、スルーすると学んだ!
「よし、じゃ、次行こう、次!」
あたしは先頭に立って歩き出した。
「ごまかした」
「ごまかしたな」
「マリンちゃんだしね」
聞こえなーい!
そして、ずんずんと、進んで行く。でも、敵がいない? なんで?
「……設楽、さっきすれ違った二人が、倒したから、敵がいないんじゃ?」
「あ、そっか。そういうことか」
「いや、待て。ペアだったぞ? しかもウチのクラスじゃないヤツだ。ペアで3層とか、平坂さんと外村さんのペアとかでやる感じだろ?」
「2組の附中生にも、それくらいの実力者がいる、とか?」
「いや、附中で3層まで行けたのは平坂さんと月城と外村さんの3人だけだったって話だったはず」
「でも、間違いなく附中生でのペアだろ? で、たぶん2組だよな? 他には考えにくい。設楽みたいなんが何人もいるとは思えんし」
「どーゆー意味かな?」
「いや、アーチの矢、見切って斬り落とすわ、ソードも一撃だわで、おれらが3層でやれんのは、設楽の戦闘力があっての話だろ。あ、これは本当にホメてるから」
「もっとホメてくれてもいいんだよ? あ、でも、さっきの人たちは高校に入って、毎日ダンジョンに入るから、実力を伸ばしたんだろーね。平坂さんに、附中の時は、毎日じゃなくて、夏合宿と冬合宿でしかダンジョンに入ってなかったって聞いたことがあるもん」
「え、そうなの?」
「それ、宍道から聞いたことあるな」
「おれも飯干から聞いた。附中はあんまりダンジョンに入らないんだって、それ聞いて思った」
「知らないだけで、ライバルって他のクラスにもたくさんいるのかも」
あたしがそう言うと、他の三人もうなずいた。
それから、5回の戦闘で、ボス部屋の前にやってきた。9回のはずが合計6回だから、3回分、さっきの人たちが倒したのかもしれない。
「ある意味では感動だな。こんな豪華な扉、なんでこんなところにって思うけど」
「ついにここまで来たかって……まだ入学してそれほど経ってないな」
「ほら、うちはリーダーが意識高い系だもの」
「あはは、あたし、意識高いからね!」
「いや、なんも考えてないだろ、設楽は」
「そう。どっちかといえば脳筋だな」
「……マリンちゃん、気を確かに。さっきの意識高いは冗談だから乗っからないで」
「むぅ、キリちゃんがヒドい……でも、とりあえず、意識はともかく、これ見て、あたしはモチベーションが上がったけど、みんなは?」
「そりゃ、まあ」
「やる気は出たな」
「うん。やればできるって、鬼教官に無理矢理教えられた感じ」
「キリちゃん、それどういう意味⁉」
「いや、そのままだろ」
「そうそう」
「あたしの味方がここにはいない⁉」
「マリンちゃんはソロで最強だから大丈夫だよ、たぶん。味方なんかなくても」
あたしの今のパーティーメンバーはこんな感じでノリが良くて、明るい。
「よし。じゃ、帰りも戦闘を繰り返して行きましょう!」
「おう」
「3層、500円だし」
「ほんと、それよね」
キリちゃん――前田桐乃が何度もうなずく。
それはあたしも思ってた! 3層の魔石はゴブリンソードマンもゴブリンアーチャーも、どっちも1個500円なんだよね!
「この点だけは強引に3層に行くって言い出した設楽が正解だな」
「だけって何、だけって」
「端数を設楽に持ってかれないように、4の倍数、狙ってこうぜ」
「だな」
「そうよね」
「みんな、ケチ!」
「いや、端数が1でも500円、3なら1500円だぞ?」
「あ、確かに……DJバーガーのチーズバーガーセット3回分あるね……」
「マリンちゃんのお金の単位はDJバーガーなんだね……」
あーもう! それでも、ダンジョンは楽しい! テンションが上がる!
それからあたしたちは3層を戻って、そのまま2層、1層と戻って、残り時間で1層のゴブリンを倒しまくって魔石を増やしたのだった。
さっきすれ違った二人とは、残念ながら出会わなかった。出会ったらちゃんと会釈で対応したのに。
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