27 鳳凰暦2020年4月23日 木曜日放課後 小鬼ダンジョン3層


 今日、あたし――高千穂美舞と酒田さんが鈴木くんから出された課題は、小鬼ダンに入ってボス部屋までの到達時間を測ること。それと、逆ルート攻略の利点について考えること。ボス部屋到達後は、18時までは3層で狩り続けること、というものだった。

 わからないことがあっても、とりあえずやってみたら、必ず学べることがあるはずだと、これまでの鈴木くんからの課題で理解はしている。


 だからまず、入場して、走って、戦って、ボス部屋を目指した。基本数となる1層22ゴブ、2層26ゴメ、3層18ソードと9アーチで、ボス部屋前に到達。タイムは――。


「二人だけだと52分もかかってるね……鈴木先生やヒロちゃんがいないと、10分近くも遅いなんて……」

「確かに岡山さんの戦闘時間はどう考えてもあたしたちより短いもの」

「あたしも1層と2層では1撃で倒せることも増えてきたのに……」

「あっちは一撃二殺」

「ああ、レベチってヤツだね。鈴木先生は……ボスも含めてソロで30分切るって、1回やって見せてほしい……20分以上早い……」

「確かに、それは見たいかも……」


 あたしと酒田さんでのボス戦は鈴木くんによって禁止されている。されてなくてもアレとはまだやる気はないけど。


 それから休憩を挟んで、逆ルートで3層を移動する。もちろん、走る。

 すると、最初のエンカウントで、背中をこっちに向けたアーチと、その向こうに同じく背中を向けた2匹のソードがいた。


「高千穂さん、これって!」

「アーチが前で、ソードが後ろ。そういうことか」


 あたしたちに気づいたアーチが振り返って矢を番える。ソードも、振り返ってこっちに向かって移動してくる。

 あたしがアーチの矢を盾で防いで、酒田さんとほぼ同時にアーチの前に到着して、同時に攻撃した。まだソードはアーチの向こうだ。


「どう考えても、アーチと先にやれる逆ルートの方が……」

「カンタン、だよね……」


 アーチが消えて、魔石になって、そのまますぐソード2匹との戦闘になるけど、2匹を釣ってのバックアタックで完璧に倒した。


「……3層って、行きより帰りの方が戦いやすくて、稼ぎやすいってこと? つまり鈴木先生は、今日は3層で思いっきり稼いでこいと?」

「確かに3層は魔石1個500円だから、かなりお得感があるし……」

「いつもボス部屋の転移で戻るから気づかなかったけど、これ、工夫したら……」

「工夫?」

「例えば、今から3層の入口まではアーチが前で、そこからボス部屋と関係のない方向の奥地の行き止まりまでアーチが後ろをこなして、そこで休憩して戻れば!」

「山ほどアーチが前の楽勝戦闘ができる、か」


 ……本当に、鈴木くんって、天才なの?


「行きを耐えれば帰りは美味しいね。なんて素敵な3層攻略……」

「よし、行こう、酒田さん」

「はい」


 あたしたちは走り出した。

 次の戦闘からは、あたしが盾で矢を防いだ後、アーチに向かって飛び出した酒田さんは鈴木くんが見せてくれた心臓の一突きをアーチに喰らわせて、戦闘時間を短縮させ、さらに余裕を持ってソード2匹と戦えるようになった。


「鈴木先生の戦法は最高だね」

「あれを真似できる酒田さんがすごいと思うの」


 あたしはまた酒田さんの急成長に少し凹んだ。それと、鈴木くんから素直にいろいろと吸収できる酒田さんを見ると、胸の奥がなぜかちくりと痛む。どうして?

 あたしは少しだけ首をかしげると、次へと走った。


 そして逆ルートで8回目の戦闘を終えて、さらに次へと走っていくと、そこには9回目のアーチとソードではなく、男女二人ずつの4人パーティーがいた。


 あたしと酒田さんは走るのを止めて、歩いてそのパーティーを通り過ぎようとした。ここはこの学校が占有しているダンジョンだからすれ違うのはみんな生徒だけど、外のダンジョンなら完全に赤の他人のパーティーとすれ違うことになる。その場合は会釈程度で通り過ぎるのがマナーとされている。今は、戦闘を終えているようだし、その対応で問題ない。


 でも、この時間で3層にいるのなら、かなりのペースで動いてるパーティーだ。あたしたちと違って走ってはいないはずだから。


 その中に一人、有名人がいた。そばかす顔でお下げをふたつ垂らした推薦首席。あのモモ――附中首席の平坂桃花がその実力を認めた……とクミ――外村久美子が言っていた、設楽真鈴。当然1組のパーティーだが、あたしが直接知ってる人、つまり附中生がいない。外部生のみのパーティーだ。それがもう3層に? どういう戦闘力してるの?


 酒田さんと二人で、会釈して通り過ぎる。すると――。


「こんにちわー」


 噂の実力者が、なんとあいさつを! え? あなた、ガイダンスブック、ちゃんと読んでるの?


 しかも、こっちに、全く悪意を感じさせない、善良な笑顔を向けていたのだ。





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