16 鳳凰暦2020年4月21日 火曜日昼過ぎ 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


「わざわざ中央本部からありがとうございました」


 私――宝蔵院麗子は、朝一の飛行機でやってきた監査部第三監査課長の築地さんに頭を下げた。第三監査課はギルド内の不正の監視が主な仕事だ。まさか、本部からそこの課長がわざわざ来るとは思わなかった。


「いや、君の疑いが晴れてよかったよ」

「バスタードソードの実物があるのですから、心配はしておりませんでした。でも、まさか本部からいらっしゃるとは。昨日、支部長が証拠を送るとおっしゃったので」

「……その証拠写真が原因だからな。能美のバカが大量のバスタードソードを背景にスマホでピースしながら自撮りした証拠写真だ。支部とグルになってアイツが仕出かしたかもとあっちでは大騒ぎだったよ」

「……あの、脳筋は……」

「悪いヤツじゃないんだが……そのせいでこの後、平坂支部の武器庫と帳簿も確認しなきゃならん。今夜はあいつにおごらせるから、みんなで一杯どうだ?」

「はい。ありがたく、参加させて頂きます。支部長の財布を空にしてやりましょう」

「はは、そりゃいい」

「空っぽにすれば財布にも筋肉を詰め込みそうですね」

「ははは」


 そこへ、釘崎さんがやってきた。


「……お話し中、失礼します。よろしいでしょうか?」


 あたしは築地さんを見た。築地さんは静かにうなずいた。


「何かあった?」

「一応、先輩に報告をふたつ。ひとつは昼休み中に、彼がまたマジックポーチを購入しました」

「は?」

「それと、三人目と四人目のボス魔石の換金者が出ました」

「数は?」

「1個ずつです」

「……早いと言えば、早いけど、今までにもこれくらいのことはあるわね」

「そうかもしれませんけど、その……」

「何?」

「その二人、4組なんですよね……」

「4組?」

「……確かヨモ大附属は順位別のクラス分けだったな? 平坂第7のボスは4層クラスで、特殊能力ありだろう? その魔石の換金で、三人目と四人目が下位クラスか。気になるな?」

「……釘崎さん、初めてになるけど、学校への報告書、作ってみて。そうね、内容は、接待戦闘の疑い、ね」

「はい。やってみます。後で見てもらえますか?」

「それはもちろん」

「では、頑張ります」


 釘崎が一礼して、自分の机に向かっていく。


「……接待戦闘となると、上位者が必要、か。噂の一億円の高校生かな?」

「一億円の高校生?」

「宝蔵院くんに話は回ってないのか? ヨモ大が高校生の見つけた攻略情報に付けた値段だよ。確か、宝蔵院くんが不正監視で立ち会ったと聞いたが?」

「立ち合いましたが、それは初耳です。一億、ですか……」

「詳しい内容まではわからんが、推定獲得可能魔石数での交渉だったらしい。高校生とは思えん。思えんが……ただ、あのバスタードソードの山を直接見た者としては、ヨモ大はいい交渉をしたと思うがな」

「一億、高校生にもぎ取られて、いい交渉、ですか?」

「魔石だけじゃなくて、あのバスタードソードの分まで加えて交渉されたら、一億どころか、二、三億はやられただろう。魔石よりもよっぽど高いからな。そのへんは高校生の脇の甘さじゃないか? まあ、一億の時点で、もう十分に高校生らしくはないが……」


 一億円……平日の放課後で魔石30個、6万円になる。休日はおよそ100個。私の目の前で100個を換金していたから間違いない。有り得ないが、有り得る計算だ。

 魔石1個二千円だと、それが週に70万で、1年なら3000万から4000万、ああ、高校生だから3年間で出した計算が一億か……確かにざっくりとした計算過ぎて脇が甘いと言えばそうだ。

 それに、小鬼ダンのゴブリンの魔石は本来、一般のアタッカーだとその倍額になる。実際、平坂第3ダンジョン――通称、犬ダンのコボルトの魔石はゴブリンの魔石と同格で、1層のものでも1個二百円で換金されている。


「まあ、当面の問題はあの120本のバスタードソードをどうするか、なんだが。君の報告書にあった、ギルドの武器庫で在庫過多になっても売れるまで置いておくというのが確かに無難ではあるが、次回の納品数次第だろうな。だが、どこかいい売り先でもあれば……まあ、それはそれだ」

「売り先……」

「さて、噂の高校生はとんでもないラッキーボーイか、それとも、本当の実力者か……」


 そこで築地さんは考え込むように黙ったのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る