15 鳳凰暦2020年4月21日 火曜日朝 通学路


 火曜日の朝は角の潰れたタバコ屋さんで、平坂さんと待ち合わせて登校する。あたし――設楽真鈴にとっては、朝からご褒美な一日だったりする。


「ソロになって、どう? 平坂さん、困ってない?」

「んー? 大丈夫だよー。2層までは全く問題ないし、3層は1対3だからちょっと大変だけど、考え方だしねー」

「考え方?」

「そ。1対3じゃなくて、1対1を3回にうまく持ち込めばいいんだよ。ま、設楽さんなら持ち込もうとしなくても自然にそうなるんだろうけどね……」


 ……どういう意味だろ?


「そっちはどう?」

「あ、うん。今週中、しかも明日には3層に入るよ!」

「え? それは、ちょっと早いような……?」

「3層に行くのに、ゴメイをみんなが100ずつって、考えてみたら、そこまでしなくても60くらいで少しだけ3層の経験を加えた方が効率はいいかもって、思ったんだ。勘だけど」

「……スパルタ過ぎだよ?」

「平坂さんにだけは言われたくないよ、それは」


 あたしはゴブイチの次の日に、平坂さんのパーティーで小鬼ダンに入ったことを思い出す。あたしと他の二人がスタミナ切れになるまで戦わせて、行き止まりの壁際で仁王立ちしてた平坂さん。あれが世に言うスパルタというものだと思う。


 ……まあ、あたしも今の班でそれを真似させてもらったけど。


 そのせいか、教室で何人かの男子があたしのこと、「鬼斬り」って言ってた。ちょっとかっこいいかもって思ったからそのままにしてる。男子ってそういうとこ、気を遣わないもんね。あたしたちは平坂さんに鬼とか言わないし。あ、教室と言えば……。


「冴羽先生、突然入院なんて、びっくりだったね」

「そーだね。事故って佐原先生は言ってたけど、入院も二、三週間くらいのことらしいし。戻ってくるならそこまで心配はいらないと思うけどねー」

「そんなもの? 入院って、もっとすごいことかと思ってた」

「学級代表として佐原先生に確認したんだよねー。でも、どこの病院かも教えてくれなかったし、お見舞いもできないから、心配するぐらいしかできないよね? なら、もういいかなーって」

「なるほど、そんなもんかも」


 あたしたちは意外と、担任の冴羽先生に対してドライな感じだった。





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