5 鳳凰暦2020年4月20日 月曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


 僕はギルドの受付ブースをちらりと覗いて、先輩お姉さまがいるところを選ぶと、酒田さんと一緒に中へ入った。


「はい、何の……って、鈴木くんかぁ。また、ギルドを困らせに来たの?」

「僕はギルドを困らせたりしませんよ、先輩。ところで、クラン加入申込書の基本様式はギルドにありますよね?」

「さっきのバスタードソード、奥まで運ぶだけでもすっごく大変だったんだけど……クラン加入? それは……普通はあるはずだけど、ここは出張所だから……」

「今、すぐ、下さい。さあ、下さい。これからの未来のために必要なんです!」

「わ、わかったから、乗り出さないで。ちょっと待ってて」


 僕の最大の情報源である先輩お姉さまが一度ブースを離れて、何か引き出しを何か所か確認して、次はパソコンの方を見て操作をした。コピー機のような印刷機から紙が印刷されている。


「あ、5、6枚、お願いします、先輩!」

「えぇ~」


 そう言いながらも、先輩お姉さまは、パソコンを操作して、追加で印刷してくれた。


「はい、これ。でも、これは、パーティー用の、秘密保持の魔法契約とかではないけど、いいの?」

「まあ、クランへの加入申請ですからね」

「何? 今度はクランごっこでもするの?」

「ごっこじゃないです。じゃ、ありがとーございましたー」


 僕は先輩お姉さまに手を振って、ブースの外にある記載台の方へ行った。酒田さんはとりあえずついてきてる。

 そこへ、岡山さんと高千穂さんもやってきた。


「じゃ、これに、日付は高3になった時の誕生日で、名前はフルネームでここ。書いて」

「クラン加入申込書? これに、誕生日で、高3? ということは2022年のあたしの誕生日だから7月7日でいいよね?」

「そうそう。2022年7月7日で、ここには氏名を。あ、ペンで」

「はいはい」


 酒田さんは、迷いなく、2022年7月7日、酒田あぶみ、と、日付と氏名を書き込んだ。僕が言うのもなんだけど、この子、大丈夫かな? ちょっと心配かもしれない。でも、これでオーケー。この子は成人を迎えた18歳となるその日に、僕のクランメンバーになると確定した。


「……クラン名が空欄だよね?」

「何それ、だじゃれ? クラン名とかはまだ決めてないからな。決まったら書く。で、これは僕が預かる。そして、酒田さんは僕がこの学校で上位に育てる。酒田さんは18歳で成人したらそれと同時に僕のクランに入る」

「あたし、鈴木くんのクランに入るんだね?」

「そういう書類だから」

「……あの、鈴木さん。わたしにも、その書類を下さい。すぐに書きますので」

「あ、岡山さんも? 岡山さんはもう……」

「書きますので」

「あ、はい」


 なんか反論を封じられた気がする……。


 僕は素直に岡山さんに書類を渡した。岡山さんも迷わずに書いた。


「誕生日、9月3日なんだ」

「はい、そうですよ? 鈴木さんはいつですか?」

「4月3日」

「……もう過ぎてますね」

「うん」


 僕は酒田さんに向き直る。


「酒田さん、今日の放課後から、さっそく頑張ろう。必ず高千穂さんの役に立てるようになるからな。岡山さん、酒田さんがすぐに小鬼ダンに行けるようにサポート、お願いできるかな?」

「はい!」

「わかりました」

「で……」


 そして僕は一人で戸惑っている高千穂さんを見た。


「高千穂さんは、酒田さんを放っておける人、かな?」


 絶対に違うと思う。そうでないと、酒田さんがあんなことを言うはずがない。入学して10日くらいの付き合いであそこまで言わせる人だ。だから、高千穂さんは必ず釣れる。


「……あたしも、書きます。あの、鈴木くん。よろしく、ね?」


 戸惑いながらも、高千穂さんはそう言って、僕から書類を受け取った。


 ……よし。人材確保。リアル育てゲー、ただいまより、ゲーム、スタート。





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