ιστορία3 聖域という名の希望

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 何で私?私は死なないよ?


「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」


 ねえ、何で?


「いい加減自覚したら?みんながみんな、救済を求めていないっていう事を」


 そんなはずない。この地獄コラスィで救済を求めていない訳がない。

 私は死なない。死ぬわけにはいかない。


「アンタなんかさっさと死ねばいいのよ。この思い上がり野郎」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「他界他界他界他界他界他界他界他界他界他界他界他界他界他界」

「ぐぅぅあ゛ーっ!黙れっ!私のっ!私の中にっ!入ってくるなっ!」


 気づけば私は汚れたベッドの中で狼狽えていた。頬に汗と涙が垂れている。

 窓から空を見ると、暗い時間だった。今までの私なら、すぐにもう一度寝ることができたのだろう。今日は出来そうになかった。

 そのまま、私はあの悪夢を脳内に再生しながら、夜が明けるのを待った。



 ***



 あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。悪夢の内容がありありと、脳内にフラッシュバックされる。そのたびに私は汗と涙が止まらなかった。

 あの悪夢はいつまで続くのだろうか。もしかしたら永遠に終わらないのかもしれない。

 この使命を果たすまでは死ねないが、あそこまで「死ね」という言葉を連発されると、精神がくたばってしまう。どうしたものか。

 すると、起床を告げるベルが鳴った。


「おはよー」

「おはよッ!」


 気づけば、部屋に響く挨拶の声も随分と減った。

 連日のアリーナの試合で、この部屋の娘は大分と殺されてしまったからだ。まあ、その内の一人は私が殺したのだが。

 そうして、私達は仕事場へと移動する。今日は、私も試合が無いのでみんなと同じ様に、仕事をこなさなければならないのだ。

 私の今日の仕事はオープラのパーツを流れ作業でひたすら組み立てる事だった。

 みんな無言で黙々と自分が受け持っているパーツを組み立てていく。何も知らない人が見れば楽そうに見えるのだろうが、案外そんな事はない。流れ作業の為、ゲシュタルトが崩壊すると暫くは何が何だか分からなくなるので、常に何かを考えなければならないので案外体力を使う。

 世間では勉強する事が一番、体力やカロリーを使うというそうだが、私は物心ついた時には何かしらで労働をしていた。勉強なんていう行為をまともにしたことがないので分からない。



 ***



 仕事が終わり一度部屋に戻った。部屋で残っている女の子と喋っていると私は何故か運営に呼び出された。

 一体なんだというのか。


「ルピナス・クセキナス。本日の第三回戦にあなたの出場依頼が多数の少女から来ています。連日のアリーナで好成績を残しているので、自由に出来ますがどうしますか?今回に限り、拒否しても構いませんし、貴方が望むのであれば、出資者にあなた自身を売る事も出来ますがどうしますか?この場でご決断を。五分与えます。質問は許可します」


 呼び出され向かった先で言われた言葉はこれだった。試合をするとなれば相手は誰なのだろうか。望むのであれば脱出も出来るらしいが、私は脱出する気はない。私には再三自分自身に言い聞かせている神の名の使命があるので、脱出するわけにはいかない。


「試合を行う場合、相手は誰ですか。その相手で試合を行うか決断します」


 私は毅然とした態度でそう質問した。そして運営の返答はこうだった。


「アンピトリテ・メルクーリ、機体名はオケアノスです」


 アンピトリテ・メルクーリ。聞いたことない娘だった。 

 その返答を受けて私が出した答えはこうだ。そしてこの時に私の運命が決まった。


「試合を行います」

「分かりました。では今から入浴を行い食事をとって下さい」


 そう言われ、私は浴場へと向かった。



 ***


「はぁ......。試合がないと思ってたのにな......」


 まあ、こうなったのも私が決めた結果なのだが。そして、私が望むなら出資者に売却され、脱出できるといわれたが、私が売却されればどうなるのだろうか。

 今の所使い道のない成長した豊満な肉体をまじまじと眺めながらそんな事を考えていた。一生をかけて奉仕させられるのだろうか。

 そんなこんなで私は浴場から出て、食事をとりいつも通りの流れで、エヴロギーアが格納されている自分の格納庫へと向かう。

 そして機体に乗り込み起動シーケンスを開始する。すると暗いコックピット内にモニターの明かりが灯り、暗く狭い格納庫にもエヴロギーアから発する光が満ちる。

 試合が始まった。



 ***



『勝者はエルピス・クセキナス!今回も見事な勝利を飾りました!今回もパイロットスーツがオークションに賭けられます!皆さん是非とも今回もご参加下さい!』


 勝った。試合が終わり、私のパイロットスーツはいつも通りオークションに出品されるらしい。

 いつもどれくらいの値段で落札しているかは知らないが、どうせろくでもないことに使われているのだろう。

 試合が終わり、部屋に戻るとまた運営に呼び出されこんな通告が出された。


「エルピス・クセキナスへ通告します。貴方は今日より一か月間、第一戦から第六戦まですべての試合に出る事を命じます。通告に従わなければ貴方は我々『大手賭博運営企業エピキリシキュベリウテーリオン』の賭博運営条約にのっとり貴方を正式に処分致します」


 これを言われた時、私の頭は思考を一瞬辞めた。どういう事か理解できなかった。

 この通告に従わなければ私が殺される?悪夢で見たように少女に殺されるのではなく、企業によって殺される?

 もしかすると、今日の試合を行っていなければ、こんな事は言われなかったのだろうが。いや、そんな事を考えても最早無駄だった。通告された事はもう確定済み事項なのだ。

 本当に勉強をしたことが無い私の頭では理解できなかった。いや、勉強をしている人でも理解できないかもしれない。

 だが、私にいいえを言うメリットはない。はいと言っておくしか選択肢が無かった。


「分かりました」


 そこから私の怒涛の連続試合の日々が始まった。



 ***



 毎日風呂としっかりとした食事が出る代わりに、私は第一戦から第六戦までの計六試合を毎日こなさなければならなかった。そして、その試合に全て勝った。

 全ては神の名の使命の基に実行した事だが、悪夢で言われた通り、本当にこれでみんなが幸せなのかは分からなかった。

 そして、その日々も終わりに近づいたある日、私はとうとう悪夢によって壊れた。

 エヴロギーアを機動しようとするが、AIが反応しなくなったのだ。精神不安定により、これ以上のAIを使っての戦闘は危険だと判断されたらしい。

 だが、私は無理やりAIを使ってアリーナに臨んだ。すると、AIが予想した通り、私は精神負荷の限界により体調が急激に悪化し、常に頭痛と吐き気が止まらず、高熱も出ている。そんな中、回らない頭で必死に考えに考え、出した結論はこうだった。

 次の試合で死ねばいいと。

 これに気づいたのが怒涛の連続試合の日々が終わる、三日前の第四戦だった。その日の第五戦。私は死ぬことにした。



 ***



『さあ、本日の第四戦は、『エルピス・クセキナス対キルケー・アンドレウ』です!両者の使用機体は『エヴロギーア対アガペー』となっております!特別ルールなどは適用されていません!相手を殺せば勝ちです!』


 会場がアナウンスと共に今日四回目の盛り上がりを見せる。

 そして、今回の掛け金倍率は破格の五倍。普段なら二倍や三倍が普通なのもあり、会場は余計に盛り上がっている。


『さあ、掛け金を確定してください!』


 会場にいる出資者が一斉に手元のボタンを押す。アリーナ中央のモニターには掛け金確定の文字が映る。

 私は、いつも私の相手が感じているであろう絶望を感じていた。


『それでは、第四戦開幕です!』


 両機がブースターを使い一気に距離を詰める、そして、エヴロギーアはエネルギー弾をアガぺーに対して放つ。

 アガぺーはそれを防ぐことも避ける事もせずに、真正面からエネルギー弾を受け止めた。



 ***



 理解できない。エネルギー弾を真正面から受け止めるとは。しかも連射した分を全て受け止めたなんて。

 キルケ―は一体何を考えているのだろうか。私には到底理解できない。

 今日、初めて見た娘だから、理解できないのは当然なのだが、今までの私ならすぐに適応し、それに応じた試合展開を運ぼうとしただろう。


「うッ......」


 相変わらず吐き気だけは止まらない。モニターを毎日長時間見ているからだろうか。


『推奨。戦闘の停止。早急な体調不良の治療』


 AI音声が私にそう告げるが、私は構わずブースターを使い距離を詰める。だが、一向に迎撃態勢に入ろうとしない。一体どういう事なのだろうか。



 ***



 私はあの娘が絶対に死んではいけないと思ってる。だって、あの娘は私達の中で娘だから。あの娘は今死のうとしているみたいだけど、私が絶対にそうはさせない。

 だから、私は機体の名前通り、攻撃を全て受ける。



 ***



 エヴロギーアが一方的に攻撃を放ち、アガペーは攻撃を受け続ける。やがて、エヴロギーアも攻撃を辞め、両機は静止した。



 ***



 流石に一方的にずっと攻撃し続けるのもナンセンスだと感じ、私は機体を静止させた。

 すると、通信を介して相手のキルケーが喋りかけてきた。


『エルピス?聞こえているかしら』

「聞こえてるわ」

『いい?貴方は死んでしまってはダメなの。何故なら、私達の中で唯一神の名前を持たないからよ』

「神の名を持たない?それは一体どういう事なの?」

『それはいずれ分かるわ。今はとにかく死なないで。生きて』

「一体どういう事!?」


 キルケーに通信を切られた。



 ***



 私は言いたかったことを通信でエルピスに伝えると、搭載していた自爆スイッチを押した。


『警告、キャンセル不可能。推奨、早急な機体からの脱出』


 私はこの世界に別れを告げる暇もなく、機体の爆発に飲み込まれ死んだ。



 ***



 目前でアガペーが爆発した。私は何が何だか分かっていない。この試合では分からない事だらけだった。

『私だけが神の名を持たない』とはどういうことなのだろうか。私は『神

 に与えられたこの名の使命』通りに行動してきたのだ。私も神の名を持つと考えるのが普通ではなかろうか。

 だが、私には神の名が無い。もしかすると、神の名が与えられていないからこそ、使命が存在するのだろうか。

 そんな事を考えているともう試合が終わり、いつも通りのアナウンスが流れていた。だが、今回は一つだけ違う所があった。

 それは、私のパイロットスーツが出品されなかったという事だ。そして、その代わりに、

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