第19話 異変の進化と深化②

 さて、ただ歩くだけというのも味気無いし月刊ギルドでも読んでみるか。


「取り敢えず今まで討伐した魔獣は正攻法で倒そうとするとどんななのか見てみよう」


 つか、そもそも魔物と魔獣って何が違うんだ?


 そう思いながら表紙をめくると、見開きが光だし、文字が浮かんできた。


 なるほど! こうやって読みたいページを魔法で出すからそもそも紙とかが必要無いのか! やっぱり異世界の少年誌すげぇ!!


「えーと?『魔物は魔力を持つ亜人族以外の生物の総称で、その中でも動物の見た目なのが魔獣』」


 つまりボールボーグは魔獣で、リザルドマンは魔物って分け方が正しいのか? ややこしいから統一しとけよ。


 じゃあ本題の、今まで倒した魔物達の正攻法だな。


「ボールボーグは......『巨大な針の球になって突進してくるので近付かれる前に高火力魔法で吹き飛ばしましょう。それが不可能なら罠魔法などで埋めてしまいましょう』......」


 うん、じゃあリザルドマンは?


「なになに?『魔法に対して高い耐性を所持しているので、耐性を貫通できる位の高火力で吹き飛ばしましょう』......」


 脳筋が......脳筋が過ぎるッ!!!! なんの対処法にもなっていない! 威力大正義すぎるだろ!


 ん、待て。まだ続きが書いてあるぞ?


「『――――尚、会話が可能な個体は進化して純粋な亜人族、“リザードマン”になる可能性があるので討伐はしないように!』進化?」


 魔物って進化するのか。それでいて進化すると人間と同じ扱いになると......なんかこの世界の魔物事情難しいなー


「――――マツル? 私疲れちゃったんだけど......」


 後ろを歩いていたホノラから声をかけられた。月刊ギルドを読むのに夢中で自然と歩くのが早くなっていたようだ。


「じゃあ少し休憩でもする?」


「それは大丈夫よ。その代わりも良い? 移動を短縮出来るわ!」


 お、移動を短く出来るのは良いな! でも一体何を投げるんだ?


「じゃあちょっと背筋を伸ばして立って......」


「うん、」


「行くわよ! 歯を食いしばって!」


 そう言うが早いか、ホノラは直立不動の俺を槍投げの要領でブン投げて、その上に飛び乗った。


「ぇぇぇぇ!? ちょっとホノラ!? 嘘だろ!?」


「はやーい! 飛んでる! これでチッチエナ村までひとっ飛び! 帰りもこうしましょ?」


「二度とごめんだァァァァ!!!!」


 数十秒でもう村が眼下に見えてきた。速度だけはまじで一級品だなこれ。


 あれ? これどうやって着地するの?


「ホノラさんホノラさん? これどーやって着地すれば良いですか?」


「あ......! 頑張って!」


 絶対そこまで考えずに俺の事投げやがったな!? ふざけんなよ!


「ぶつかるゥゥゥッ!!」


 ズガン! と凄い音をたてて俺は頭から地面に突き刺さった。その数秒後に、どのタイミングで離脱したか分からないホノラが俺の横にふわりと着地した。


 頭を引き抜いて辺りを見回してみると、ちょうど聖堂の目の前にいた事がわかった。


 既に扉は開いており、中から戦闘音が聞こえてきた。


「アイツ.......! 俺が頭抜くのに手間取ってる間に一人で始めたな!? 詳しい頭数は聞いてないんだから慎重に行こうって話し合ったのに!」


 急いで俺も中に入ると、既にレッサーキャットは7匹倒れており、ホノラは最後の1匹と戦闘をしていた。


 やっぱり目の部分に傷が付いていて潰れていた......今ホノラが戦っている1匹にもやはり目の辺りに黒い煙が纏わり付いている。


 黒煙は対象が死ぬと消えるのか...? 


「ホノラ! 助けは必要か?」


「大丈夫よ! もう...片付くわ!」


 その言葉通り、レッサーキャットは既に満身創痍、意識があるかどうかすら怪しい狂ったような形相で何度も飛びかかってはホノラに軽くあしらわれていた。


「――ごめんね猫ちゃん! ほんとはこんな事したくないんだけど村の人とかに被害が出てるから!」


 その迷いの無い拳は確実に腹を捉え、レッサーキャットは殴られた勢いのまま壁に叩きつけられた。


「やったか?」


「楽勝! 今回はマツルは移動手段だけだったわね」


 そういえば俺何もしてないな。まぁたまにはこんなクエストもあっても良いか――――


「キシ......」


 崩れた壁の瓦礫の中から鳴き声が聞こえる......


 その瞬間、俺達はおぞましい空気の震えを感じ思考が生じる前にトドメを刺そうと身体が動いていた。


 今殺しておかなければ、コイツレッサーキャットはヤバい...と


――――しかし、思考より速く動いた俺達より一瞬早く、レッサーキャットの周りを覆っていた瓦礫が爆音と共に粉微塵になった。


 いや、爆音ではなかったのかもしれない。その時既に俺達の聴覚は奪われていたのだから。


―なんだ今の!? ホノラ! 大丈夫か!?―


―あ......―


 ホノラは目、鼻、耳、口から血を垂れ流し力無く突っ立っていた。気を失っているようだ......


 そして今気づいた。耳が聞こえない...何があった!?


『......ちょっとまずいかもね...マツル君は私が聴覚保護を急いでかけたから一時的な聴覚異常で済んでるけど、彼女は危険な状態だ。すぐにでも回復魔法をかけないと』


 そんな......! レッサーキャットのどこにこんな能力が!


『今、瓦礫を粉にして出てきたアレは......レッサーキャットが進化した魔獣、”狂戦猫キャスパリーグ“』


 キャスパリーグ......って進化って!? 魔物が純粋な亜人になる事だけじゃないのか......


 レッサーキャット改めキャスパリーグは、先程より数倍は巨大になり、茶色だった体毛は黒く変色して禍々しい爪と牙を備えていた。

 進化しても変わらなかったのは、目の周りに黒い煙が纏わり付いていること。狂ったような表情で涎を垂らし唸っている所だ。


「――――やっと耳が回復してきた......ナマコ神、キャスパリーグの情報をくれ。事態は一刻を争う」


『私が適当に解析しておいた月刊ギルドの情報によると、あらゆる物を破壊する超音波。強靭な爪と牙。素早い動きが強みだね......てか、マツルは勝機があるの?』


「ある。一瞬で終わらせる」

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