第20話 異変の進化と深化③

 俺の親父は言っていた。


―我が流派は“斬れないものを斬る”事が真髄―だと


「ギィィィィ!!!!」


俺達を一瞬戦闘不能にした超音波をキャスパリーグが放つ。目が見えない分これで相手との位置や距離を測っているのだろう。


当たれば終わり。これで俺の仮説が間違ってたら結論は死。だが......


「音の疾さがあっても、当たらなきゃ意味が無いよなァ!!」


『音を斬った!?』


 その通り! これは技でもなんでもなく、親父の流派! 基礎中の基礎“刀法 滅入めにゅう”なのだ! これがあれば音だろうが水だろうが物理的に斬れないものを斬ることができるんだってよ!


『んな滅茶苦茶な......』


「ギャリャァァァァ!!!!!?」


突然キャスパリーグが俺めがけて爪を振り下ろした。

 探知兼攻撃手段の超音波が通用しない事を本能で理解したのか......そうなったら人間とは桁違いの膂力で押し潰すのは良い判断だろう。


相手が剣士の俺じゃなかったらな。


「じゃあな猫ちゃん......俺に近付いてきた時点で俺の勝ちだ」


【我流“介錯” 穫覇蝶かるはちょう


それは狂気と苦しみから解放する慈愛の刃。

 俺に突き立てようとした前脚を強引に掴み地面に叩きつけ、俺は首を一刀の元切り落とした。


その瞬間、黒煙が霧のようになって散るのが見えた。やっぱり死ぬと消えるのだろう。


――――今はそんな事考えてる場合じゃない! ホノラを回復させなければ!


「ホノラ! 俺の声が聞こえてるか!?」


「あ......う......」


目は虚ろで呼吸も絶え絶えだ......


 今から村に急いで回復魔法をかけてもらう?

――いや、今の聖堂から村までまた少しだけ距離がある。この状態のホノラを動かす、ここに置いておくのはリスクがデカすぎる。


『マツル君! 月刊ギルドだ! 今すぐ開け!』


ナマコが頭の中で叫ぶ。本なんて今読んでる場合じゃないのに!


 そう思いながら開くと、そこには緑色に光る札がくっついていた。


「これは......! 回復の呪符!?」


『これが今月号の付録だったんだ!! 呪符は魔力のない君にも使える! 早くホノラちゃんの体に貼って!』


俺は慌てて本から切り離し、ホノラの体に呪符を貼り付ける。

 すると呪符と身体が少し光り、その光が消える頃には呪符はポロポロと崩れていた。


「うぅ......猫は...?」


「安心しろ。俺が討伐した」


「私もまだまだね......音如きで動けなくなるなんて! もっと強くならなくちゃ駄目ね!」


いやね、音如きって、普通の人は死んでもおかしくなかったのよ? 

 ああいう攻撃を耐えれるようになったらもうどっちが魔物か分かんないなこれ。


「――――何やらすごい物音が......何があったのでしょうか?」


ボロボロになった聖堂へ入ってきたのは、この村の村長である老婆だった。



◇◇◇◇



「――あなた方がサラバンドギルドの......私達の依頼を受けて下さり、ありがとうございます」


俺とホノラは村長の家に迎え入れられ、食事をご馳走になった。


 村長から話を聞いて、色々と分かった事がある。

 まず聖堂にいたレッサーキャットは全てこの村で飼われていた魔獣だった。

 レッサーキャットは本来大人しい魔獣でこの世界ではペットとして人気が高いのだが、ある日突然暴れだし、沢山の住民を傷つけ、聖堂に立てこもったのだそう。


「――それで暴れ出した日、目の周りに黒い煙が纏わり付いているのを見た......と」


「はい。初めは意識もあって、名前を呼ぶと少しは反応があったのですが、いつの間にかそれも無くなって......」


 ここまで話を聞いて、俺の中に1つの可能性が浮かんだ。

 それは、誰かに操られている可能性である。

 第三者が黒い煙を媒体とした魔法で魔物を操っているのだとしたら最近急に発生し出した事にも説明がつく。


でも誰が? 何のために?


「――分からん事を考えてもしょうがないな。村長、取り敢えず今回の依頼はこれで完了ですので、俺達はこれで。また何かあったらギルドマスターの方に」


「この度は本当にありがとうございました...」


そう言って村長は何度も俺達に頭を下げた。


「よーしホノラ! 日が暮れる前に帰るぞ!」


「そうね! ハイ! マツルはビシッと立つ!」


これは......まさか...!


「あああああああああああ!!!!」


「やっぱりはやーい!!」


行きと同じように、俺はホノラに投げられ、ホノラは俺に飛び乗った。


――――


「賑やかな人達だったわね......あら、何かしら? 黒い......大波?」



――チッチエナ村が消滅したという話を俺達が聞かされたのは、それから2日後の事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る