第17話 スキルとざまぁと最強さん②
「――この前ヤリナとモクナを2人同時に相手取って瞬殺した新人が今度はギルマスと戦うんだってよ!」
「お前どっちが勝つと思う?」
「流石にギルマスだろ!」
「でも俺ァギルマスが直接戦ってる所なんて見た事がないぜ? あの速さがあれば新人もワンチャン―――」
そんな会話があちこちで聞こえる。
俺とギルドマスターはギルド地下にある訓練場に来ていた。何故か外周には観客席が併設されており、そこは大量の冒険者で満員だ。
「なんでこんなに人がいるんですか!?」
「あ~、僕が集めたんだ!」
ギルドマスターはそう言うと俺に文字と魔法陣の書いてある紙を渡してきた。
「えーとなになに?『最強VS最強の大決戦!! 期待の
「これをサラバンド支部の全冒険者に転送したんだ! 僕が最強って所をみんなに見せる為にね!」
目立ちたがり屋すぎるだろ!! 何このギルマスに降り注ぐ声援! なんか『ギルマス勝って!!』って書いてある横断幕出てるし!
ってあの横断幕、持ってるのこの前俺達が助けた女性冒険者の皆さんじゃん!
「――マツルーーー!!」
「兄ちゃん!!」
ッ! この声はホノラとメツセイ!?
そうか全冒険者に通達が行ったならアイツらも来てるのか! 俺の応援をしに来てくれたんだ――――
「あんたギルマスってめっちゃ強いらしいのよ!? 今のうちに降参しちゃった方が良いわよー!」
「兄ちゃんアレだ!......怪我だけはしないようにしろよ!」
応援じゃなかったんかいィィィィ!!!!
「なんかこの空気で負けるの腹立つ! 絶対勝ってやるわァ!!!!」
「君のそういう心意気が僕は好きだぜ!」
「ルールは一撃でも相手に当てた方が勝利となります! では、用意......初め!!」
受付のお姉さんが笛を鳴らすと同時、
俺は地面を蹴り、一瞬で俺の間合いにギルドマスターを入れる事に成功した。
一撃で決める!
【居合・四――――!】
「確かに速い......けど、僕の知覚速度からしてみたら遅い方だし、何より君の身体は鉛の様に重そうだよ?」
「何!?」
【
なんだ!? 身体が急に重く! これがギルドマスターの魔法!?
「動きが――!」
「それに、その刀とやらの扱いもなってないね。今にもどこかへ飛んでいきそうに見えるよ」
「ふざけんな―――!」
力任せに重い右腕を振り上げると、その勢いのまま俺の刀は手を離れ地面に突き刺さった。
「はぁ!? どういう事だこれッ!」
「これが僕の思う世界......それを君と共有しただけさ」
共有? クソ! 身体がみるみる重くなって......
俺は自分の体重を支えきれなくなり、うつ伏せに倒れ込んでしまった。
そこにギルドマスターは近寄り、俺だけに聞こえる声で耳打ちをする。
「これが僕のユニークスキル【共有】。僕に見えている、考えている世界を君と共有したんだ。これ、みんなには秘密ね?」
なんだよその能力......じゃあギルドマスターが”マツルの身体は重い“と思ったから本当に重くなっちまったのか? こんなの、せーので戦い始めた時点で俺の負けじゃねぇか...俺もこんな強いスキルが良かったな......あれ、なんかめっちゃ悔しくなってきた。
「ぐっ......負けるかァ...!!」
「そんなに手足を動かしても無駄だよ。チャチャッと負けを認めないと怪我するぞ?」
「うるせぇなぁガチャガチャとッ!!!!」
よし! 全身に力入れたら立てたぞ!
「嘘ォ!? 僕のスキルが破られ――いや、そんなハズは――!」
「根性!」
「なにそれェェェ!」
「じゃあギルドマスター、一発殴らせて頂きますッ!!」
俺はホノラから殴られ続けけた事で殴り方を学んだ。身体が重いなら!! その分威力も上乗せされるッ!!!!
「これは僕の負けかな......なんてね」
誰に聞こえたか分からない程の声でそう呟くと、ギルドマスターは俺の拳を受け止めるように両手を突き出した。
【防御魔法
俺の拳がギルドマスターの手に触れた瞬間、全衝撃......それ以上の衝撃が俺の身体を駆け抜けた。
「グァァァァッ!!!!」
「攻撃の威力を倍以上にして跳ね返す上位の防御魔法だよ。スキルは解除したけど、それでも暫くは立ち上がれないだろうね」
「くっそぉ~! 俺の負けだ!!」
観客席が揺れる。凄まじい歓声だな......中には俺の事を賞賛するような声も混じっている。
「――マツル! 大丈夫!?」
観客席とフィールドを隔てる柵を蹴り飛ばしてホノラが駆け寄ってきてくれた。
「――あぁ、なんとか生きてる......でも完璧に負けちゃったよ...」
「もっと腰を入れないからよ! 私なら魔法が反応するより早く殴り飛ばせてたわ!」
そんなはずは無いと思うのだが、この笑顔をみると本当にやりそうでちょっと怖い。
「いやぁ良い勝負だったね! これは皮肉でもなんでもなく純粋な気持ちだ。まさか【世界共有】が破られるとは思わなかったよ......でも、僕の勝ちだから、分かってるよね?」
「はい、俺はやると決めたら全力でやる男ですよ」
「いいえ。この勝負、マツルさんの勝利です」
「え?」
「えぇ?」
「「「えェェェェェェ!?」」」
「ウィールちゃんそれはないよ~! だって俺打撃の全衝撃を完璧に反射したよ!? それでマツル君ダウンしたし負けも認めてたよ!? なんで僕が負けなのさ!」
「完璧に反射できたからこそ負けなのです。私は、先に攻撃を当てたら勝利と宣言したので、反射するしないは関係なく、拳を当てた時点でマツルさんの勝ちです」
「――という事は?」
「マツルの大逆転大勝利ィ!!!!」
ええぇぇええええ!? そんな事ある!?
おぶさって来たホノラを降ろしながらふと前を見てみるとギルドマスターは困惑の表情を浮かべていた。多分俺も似たような顔をしているだろう。
「マツル君、まぁ......僕は試合に勝って勝負に負けた感じだね......てことであの話は無かった事に――――」
「いや、やらせてください。俺は一度やると言った身。責任を持ってこの問題を解決します」
「なになに!? 強い魔物や魔獣と戦えるの?」
ホノラが身震いしながら話に割り込んで来た。めっちゃ楽しみにしてるじゃん
「――俺の相棒もこう言ってる事ですし、俺に......いや、俺達に任せて下さい」
「よし! じゃあギルドマスター直々の依頼だ!! 『目無しの魔獣を討伐して、その原因の調査解決に当たる事』!」
「「はい!!」」
こうして、俺とホノラは目無しの魔獣が何処から来て、どうして生まれるのかを調査する事になったのだった。
――この一連の事件の先に何が待っているのかもまだ知らずに。
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