第二章 決戦“目無しの魔獣”

第16話 スキルとざまあと最強さん①

「マツルさん、お待ちしておりました。ギルドマスターがお呼びですので、二階奥の部屋へどうぞ」


 2週間振りにギルドへ行くと、すぐに受付のお姉さんから声をかけられ、あれよあれよと言う間に二階の奥の部屋へ案内された。


 ギルドマスター? そりゃあ居るか。そうだよな。で、なんでそんな凄い人が俺なんかと会おうとするんだ?


――まさか! 「魔法が使えないようなクズは私の理想とするギルドには必要無いのですよ......消えろゴミ」


 ギ ル ド 追 放 ! !


 みたいな感じなのでは!? そこからなんか俺が意外とチートな事にみんなが気付いてなんやかんやあって「ざまぁwwww」を俺が言って俺の事見下してた奴らを全員顎で使って逆に見下す的な展開になるんですか!?


 俺には無理だ!! 人の事を見下しつつ顎で人を使ったら顎がしゃくれて水がすくえるようになってしまう!!


 それは困る! そうならないようにはどうすれば良いか? 舐められてはいけない! 


 とりあえず指を鳴らしながらヘドバンしてガンを飛ばすしかあるまいッ!!


「――では、この先でギルドマスターがお待ちです」


 めちゃくちゃ豪華かつ重厚な扉がゆっくりと開く。完全に開いてからが勝負だ!


「やあ! 君がマツル君だね! 僕がサラバンド支部、ギルドマスターの――――」


「オウオウオウ!! テメー何ガンつけてくれとんじゃコラァァァ!!!!」


 頭が取れる程振れ!! 指の骨が砕ける程鳴らせ!! 目が飛び出る程凝視しろ!! これが俺の舐められない為の奥義じゃあああああ!!!!


「え、ちょ......何!? あの......分かったから! 落ち着いてぇぇぇ!!」


――――


 俺は気が触れていた。焦り過ぎてとんでもない失態を犯してしまった......


「ギルドから追放とかじゃなかったんですね...本当にすみませんでした。早とちりでした......」


 頭が削れる程の土下座。顔が見れないッ! まじこの一件でクビとかでもおかしくはないだろ......本気でやってしまったかもしれん。


「わかってくれたみたいで良かった。とりあえず顔上げて? ゆっくり話をしようか」


「はい......分かりました...」

 

 俺が顔を上げた瞬間、目に見えない程の速さでギルドマスターの顔が目の前に来た。


 何怖い! 速いし! なんかめっちゃじろじろ見てくる!! 何!?


「――ふーむ......大陸のどの種族とも顔の感じが違う。それに魔法が使えないという事前情報......君、異世界人だろう?」


 ギルドマスターは顔を元の位置に戻した後俺に指を指してそう問うた。


 バッ......バレたァァァ!! 


 どうすんべこれ!? 隠し通せる? 無理くね? この人絶対強いじゃん!! 嘘ついたらその場で処刑とか無きにしも非ずんば虎児を得ずって感じがする! 助けて美人で聡明なナマコ神様!!


『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン! ん~、誤魔化しは効かなそうだし、正直に話しちゃえば~?』


 信じるぞ?


『大丈夫だよ~結局人生なんてなるようになるんだから安心してね? もし何かあったらこの私が助けてあげるよ』


 俺は浅く深呼吸をした後、椅子に落ち着いて座り、事の顛末を正直に答えた。


「確かに俺は元々この世界の人間ではありません。目が覚めたらなんかこの世界にいて、冒険者として名を挙げたらモテるって聞いて......でも魔法使えなかったら女の子見向きもしてくれなくて......ウゥ...!」


 目から大量に汗が出る...俺が汗っつったら汗なんだよ。


「うーん......この世界にいる異世界人は召喚、転移、転生とか色々な方式でやって来るんだけど......みんな何かしらの特殊能力ユニークスキルを持ってるんだよね、それがあったら冒険者として有名になる事なんて簡単なんじゃないかな~? って僕は思うんだけども」


「ユニークスキル? 魔法とは違うんですか?」


 この世界に来て初めて聞いたなユニークスキル。俺はてっきり魔法の世界でそういう類の物は無いと思ってたよ。


「ユニークスキルっていうのは本来この世界の人間が稀に持って生まれる......まぁ特殊な能力の事だよ。適正と魔力さえあれば誰でも使える魔法とは一線を画す、能力者本人にしか使えない強力な力さ」


 なるほど、基本誰でも使える魔法とは違ってユニークスキルは本人にしか備わってない能力なのか。


「――それで、異世界人は必ずユニークスキルを持ってるんだけど......君はそれがないの?」


 あー、あれか! ナマコ神様から貰ったあの使えない能力!! 


 えーっと能力名なんて言ったっけ......


「思い出した!! 俺も“魔法の威力を無制限に上げられる”スキル持ってました!」


「おお! いいスキルじゃないか!! じゃあそれを使う前提で君にお願いが――――」


「――でも俺魔力が無くてそもそも魔法が使えないから全く意味の無いスキルなんですよね......」


「あ......」

 

 ギルドマスターはゆっくりと俺の後ろへ周り、肩にポンと手を置いた。

 本来ユニークスキルと言うのは、魔力の無い異世界人の救済措置的な役割なので、魔力に関連しない物が大半らしいのだが......どうやら俺のは違ったらしい。


「――どんまい、」


 その憐れみを多少含んだ、優しい微笑みが逆に俺の心を深層まで抉った。



◇◇◇◇



「――傷心の所申し訳ないけど本題に入らせて貰うね」


 そうだった、ギルドマスターは俺に聞きたい事があって俺は呼ばれてたんだった。


「俺に聞きたい事......ってなんですか?」


 大方予想はついちゃいるけど。


「その顔は僕が何を聞きたいか知ってるって顔だね。もし違ったら恥ずかしいから一応言うけど、【目無しの魔獣】について、で合ってるよね?」


「......目無しの魔獣? あぁもちろんそうですよね。はい、やっぱりそうですか」


 あっぶねぇぇぇ! 俺ァてっきりホノラと2人でBランク冒険者を埋めた話かと思ったァァァ!


 ボロが出る前に話を合わせておこう。


「――それで、マツル君。君が知っている事でいい、僕に全てを教えて欲しい!」


「知ってる事って言われても.....黒い煙みたいなのに目を喰われてたって事くらいしか分かりませんよ?」


「黒い煙......新情報だね。よし! ありがとう!」


 え? これだけ? あっさりしてるね。


「――――という事で僕からのギルドマスターとしてのお願いだ」


 やっぱり何かあった......俺は知っている。こういうお願いが大体ロクな物じゃ無いと言う事を。


「君がギルドに顔を出さなかった間にも結構“目無しの魔獣”は発見されていてね......でも通常の魔獣よりも圧倒的に強い事からまだ君の2件の他に数件しか討伐報告があがってないのさ。ギルドからも支援するからさ、“第一発見者”の君が、この目無しの魔獣問題を解決してよ!」


「......嫌ですよ!!!!? 俺新米冒険者! 責任重大!」


「もし君が解決出来たら......モテモテのウハウハだろうなぁ......」


「ぐっ...!」


 なんでギルドマスターがその事俺の目標知ってるんだ!? でもこれは流石に無理難題がすぎるってものではなかろうか?


「――じゃあこうしよう! もし僕と戦って勝つ事が出来たら、この話は無かった事にしてあげる! どう?」


 えぇ......こんな条件出すくらいなんだからめっちゃ強いじゃんギルドマスター!

 でも、いくらなんでもあれもダメこれもダメは筋が通らないよな......


 よし! 今の俺の強さがどの程度の物なのかを推し量るのも兼ねて戦ってみるか!


「――その話乗った!! 俺が勝っても文句言わないで下さいよ!」


 ギルドマスターは「楽しそうだね」とだけ呟き先にどこかへ行ってしまった。

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