第20話 そのカフェの女店主の誕生日に 2

「泉天はな、〇〇××△△◇◇♥♥…………なんだよ。私は、△△◇◇♥♥ぞ」

「・・・」


 髙橋さんは、そう忘れられない伝言を残すと、自分の車の方へ去って行った。


「〇〇君、どうした?大丈夫か?あの野郎に何か言われたか?」

 呆然と立ち尽くす僕を見て、関さんと近藤さんが声をかけてくれた。関さんは、車に乗った髙橋さんを睨んでいる。


「あ、いいえ、大丈夫です」

 僕は、動揺を隠すように薄く笑った。




 家に戻っても、まだ髙橋さんの言葉が、僕の頭の中を駆け巡っていた。

『泉天はな、・・・・』


「ふう・・」

 僕は、ベッドに寝転がりながら、白い天井を見つめていた。


 22時を過ぎた頃だ。


「○○君、早く寝ないとダメですよ。明日も仕事ですからねえ」

 階下から、泉天さんの声が聞こえて来た。

「はーい、大丈夫です。寝まーす」

 僕は、ドアを開けて、作り笑いをして答えた。


 泉天さんには、悪いがあんな言葉を聞いて眠れるわけがない。

 それに、泉天さんへの贈り物を考えないといけない。


「そうだ。プレゼントだよ!」

 プレゼントに僕の想いを込めるんだ。

 プレゼントで泉天さんに僕の気持ちを伝えるんだ!


 それから、僕は、起き上がり、泉天さんへの贈り物を真剣に考えていた。

「うーん、うーん」

 部屋の中をぐるぐる歩きながら、考える。



 突然、ドアが開いた。


「もう、ドタバタすると思ったら、寝てないじゃないですかあ」

 時間は23時を過ぎていた。

「あ、すいません。すぐに寝ます」

 僕は、ベッドに急いで潜り込む。

 

 泉天さんはピンク色のパジャマを着ていた。とてもよいシャボンの薫りがする。


 やばい!

 

 、泉天さんの顔をまともに見るのは危険だ。

 僕は、泉天さんに背を向けて横になっていた。

 

 その時、ベッドの端が沈んだ。


「○○君、眠れないなら、子守歌でも歌ってあげましょうか?」

 泉天さんは、僕の耳元に顔を近づけて囁くように言った。

「♪~♪♫、♫♪~♪、♫~♪~・・・」

 そして、本当に優しい子守歌を鼻歌交じりに歌い始めた。

 時々僕の背中を優しくさする。

 

 急に心臓が高鳴りだした。

 

 いや、これは余計に眠れないって!

 だが、ここは寝たふりだ。

「すー、すー、すー・・」

 見え透いていると思ったけど・・・。 

「うふふふ、ちゃんと眠ってくださいねえ」

 そう言い残し、泉天さんは、僕の頭を優しく撫でると、電気を消して部屋を出て行った。 


 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・


 まだ心臓がドキドキしているぞ。 

 だけど、泉天さんの顔を見て、僕には、ある想いが芽生えた。

 自分のプレゼントで泉天さんを喜ばせたい。

 そのことだけを考えることに集中しよう。


 さっきの件で、余計に眼が冴えてしまい、真っ暗な部屋の中で天井を見つめ、考えていた。

 そうして、僕は、泉天さんへの贈り物を考えついた。


 これしかない。


「早速取りかからないと。もう泉天さんの誕生日まで時間がない。でも無理もできないからな、泉天さんに心配をかけてはダメだし・・・」


 僕は、そっと起き上がり、ノートPCを開いた。職場から、また大量のメッセージが届いていたが、僕は無視した。

 僕は、真っ暗な部屋の中、PCでを作る作業を始めた。音を立てないようにヒッソリと。

  

 僕は、大切なものが何か気づいたのだ。

 僕には、もう迷いはない。




【髙橋】視点

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 同じ頃。


 俺は、自慢の愛車、白の『B〇WのSUVタイプX』を華麗に東京に向けて夜闇の高速道路を走らせていた。なだらかな下り坂の多いせいかスピードが出がちとなる。前の車のテールランプが近づくと、滑らかに追い越し車線に移り、追い越していく。


 運転しながらも、レストランでの○○君との会話が頭から離れずにいた。


「ふう、イケメンの俺らしくもない」

 不満が口をつく。

「我ながらお節介だったかな。イケメンとは、因果なものだ。○○と言い、○○君と言い、ああ~、かくもイケメンとは辛いものなのか・・・」


 自然とアクセルを踏む足に力が入っていた。俺のB◯Wは、素早く反応し、加速した。


「クソ!」

 そう悪態をつくと、


 ウウウ、ウーーーーーーッ!


「げ?」

 急にパトカーが赤いサイレンを鳴らし後ろから近づいて来たのだ。覆面だったようだ。思い切りパトカーを追い越していたようだ。。


 パトカーに合図で指示され、俺は、路肩にB〇Wを寄せ停車させた。

「いったい何キロ出てたと思うんですか?」

「ああ、すいません。つい出ちゃって・・」


 イケメンは、どんな時も慌てないのさ。

 さて、ここは、イケメンスマイルで乗り切ろうか・・。


「お巡りさん、ニカッ」


 俺は、白い歯を見せて警察官に流し目で微笑む。


 どうだ?

 これが、『キラースマイル俺』※、だ!


「あなた、何を笑ってるんですか?スピード違反ですよ。反省してるんですか?」


 ペコリ、ペコリ。


 『キラースマイル俺』が、男には効かないことを、

 俺は、この時、知った。



 ああ〜、イケメンとは、かくも辛いものとは・・・。


 

                              (つづく)



(※)髙橋のぶりは、第10話~15話の「そのカフェの女店主を守れ!」をご確認ください。


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