第14話 そのカフェの女店主を守れ! 4thミッション
【髙橋】視点
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フレンチレストラン『サミット・ヴィスィタ』の店内は、山の平地側は、紫外線をカットするガラス張りになっていて、山の眺望が店内からでも十分に楽しめる。黒い床と適度な照明により店内はそれほど明るくなく落ち着いて食事ができる。実にエレガントな雰囲気を醸し出す。
「髙橋さま、いつもありがとうございます。お席を用意しております。こちらへどうぞ」
シックな黒のスーツを着たマネージャーが、わざわざ出て来て挨拶をしてくれる。
「今日も美味しい料理を頂きに来ました。楽しみにしていますよ」
俺は、柔和な笑みで応じる。
「こちらです。どうぞ」
窓際の山からの景色が一望できる絶好の席に案内された。晴れていて雲一つない空で空気も澄んでいるため、麓の町の向こうの遠い山々まではっきり見える。実にいい景色だ。
しかし、泉天は席に腰かけても、山頂からの絶景よりも店内をキョロキョロと天井から床まで確認するように見ていた。
「どうしたの?」
「えーと、自分のお店に参考になりそうなものは無いかなあと思いまして」
「フフッ、泉天は、いつもカフェのことを考えているんだな」
「うふふふ」
あれ?
泉天が急に一点を凝視しだしたぞ。表情もなんか強張っているような・・・。
「どうかした?」
「え?あ、いいえ。何でもないです」
慌てて、視線を見ていた方向から逸らした。
何か、後ろにあるのかな?
俺は、振り返って見てみると、奥の壁際の席にこの高級フレンチには場違いなオタクファッションをしている客がいた。それも男3人とは・・。
こんなデートにうってつけの最高の雰囲気のレストランに女性も連れて来れないとは・・。
何て、可哀そうな連中だ。
「うん?あれは、場違いだね」
「そ、そうですね・・・」
泉天は、目を伏せてしまった。
何故か恥ずかしそうにしているように見える。
「まあ、気にしないで料理を楽しもうよ。ここの料理はみんな美味しいからさ」
「はい」
俺は、アミューズとして出された赤いジュレに手を付けた。清涼感があり、実に美味い。
「あのー、私ちょっとお化粧室に行ってきます」
「うん、どうぞ」
俺は、笑顔で泉天を送り出す。
さて、泉天にどう言うかだ。
まあ、気が早いが、指輪も準備してある。
前回は、先ず一緒に働くことから始めて、徐々に心を開いて貰おうと思って失敗してしまった。
だから、今度は正攻法で勝負と行く。
ふふ、イケメン3拍子の俺には、実はまだ手がある。
イケメンの3拍子とは、見た目、
※第12話をご確認ください。
そして、前夫の○○という障害が無くなった今がチャンスだ。まあ、いきなりこの指輪を渡すことはしないが、付き合う所まで持って行ければ良い。フフフ。
ああ、それにしても泉天は、以前よりもずっと魅力的になっているな~。
「ウフフ、ヒヒヒ・・、泉天」
顔がにやけてしまう。この顔は、気を付けないと出てしまうイケメンスマイルとは異なるやつだ。
「はい」
泉天が、いつの間にか席に戻っていた。
いかん!
気付かなかった。妄想に浸り過ぎて声を発してしまったようだ。
で、ここは?
やはり・・・これだ!
「お帰り」
俺は、ニカっと白い歯を見せて笑う。
どうだ?
これが、イケメンスマイル『キラースマイル俺』だ!
俺は、今一度度試した。
「うふふふ。もう、おかしな先輩」
泉天が、口に手を当てて笑う。
失敗だ。
イケメンスマイルである『キラースマイル俺』が泉天の笑いのツボになってしまったのは不満だが、まあいい。
勝負は、メインディッシュの後だ。
「どれも、美味しかったです」
泉天が満足そうに紅茶を啜りながら言う。
「満足して貰えたなら嬉しいよ」
「はい、大満足です。このカヌレもとても美味しいですねえ。うふふふ」
泉天がプティフールのカヌレを取りながら言う。
よし、そろそろ頃合いだな。
「泉天、この間の件だけど、考えは変わらないかな?」
「先輩の会社で働くという件ですか?」
「うん」
「この間もお話した通り、私にはプリマヴェーラがありますので、お断りします。申し訳ありません」
泉天は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「まあ、そうだよな・・」
やはり、こっちからではダメか・・・。
やはり正攻法だ。
イケメンは、一つの技に頼ることはしないのだ。
ジャケットのポケットの指輪を触り、意を決する。
行くぞ!
イケメン3拍子-1!
(イケメンスマイルは封印)
「もう一つ話したいことがあるんだ」
「何でしょうか?」
「泉天・・・。俺と・・・付き合ってくれ」
直球勝負!
甘~い声色のイケメンボイスで攻める。
そして、ここは、イケメンスマイルは封印だ。
笑いのツボにハマった泉天には、真剣に思われないからな。
「ええ!あの・・・」
泉天は、思いもよらないことを言われたのか、戸惑っている。頬が少し朱を帯びているような。
これは、感触ありか?
ここは押すのみ!
「泉天、俺は
俺は、イケメンボイスで圧して行く
「あの~。でも、先輩・・・。結婚していましたよね?」
「ああ。2年前に別れたよ。ちょうど、会社を立ち上げようとした時さ。とても反対されてね。だから、別れた。それからは一人だ」
「そうだったんですか・・・。先輩も色々あったんですね」
よし、同情してくれている。俺と泉天の間に障害がないことも伝わった。感触は上々じゃないだろうか。
「まあね。その分自分の会社に打ち込めたのかな。でも、今はパートナーが欲しいと思っている。泉天、それは、君しかいない。君が隣にいてくれたら・・、嬉しい。もちろん泉天がカフェを大事にしているのはわかるから、今は遠距離でも構わないと思っているよ。返事は後で構わないから考えてくれないかな?」
どうだ!
最高の
そして、ここで俺は泉天の白いほっそりとした手に自分の手を伸ばす。
俺の
フッ。
イケメンとは、罪な生き物なのさ。
「すいません」
泉天が、思いっきり頭を下げた。
「え?」
「すいません。先輩とは、お付き合いできません」
いたよ~~~~、ここに!
それもハッキリと言われちゃったよ。
あれれ~~~、でも、早くない?
待つって言ったのにさ~!
いかん、ここは冷静に対応することだ。
「あ、その・・・。良ければ。理由を聞かせてもらえるかな?」
ここは、動揺を抑え、平静になろう。
泉天は、言うのを躊躇っているのか、もじもじして顔を赤らめだした。しかし、意を決したように言った。
「先輩には、正直にいいます。私、¥$#〇×△□♠♥♦♣です」
え?ええーーーーー!嘘だろ~~~~~うっ!
泉天の意外な言葉に今度は、俺の方が動揺してしまった。
「そ、そうなの・・・。それ本当?」
「はい、すいません」
「そうなんだ・・・」
俺は、泉天の返事に愕然としてしまい言葉を失っていた。
その後は、レストランの会計を済ませ、泉天をカフェまで送り届けたが、それからは、お互い会話も少なくなり、俺も上の空になってしまい、何を話したのか覚えていない。
この日、俺はイケメン3拍子が無力であることを初めて知った。
(次で最後です。最後までお付き合いください)
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