第10話 そのカフェの女店主を守れ! プリミッション
僕は、仕事が終わって食事を取った後、自室のベッドに寝そべり、白い天井を見ていた。
「あーあ。いつもこうだ」
折角、泉天さんといい感じになりそうだったのに、あの高橋という泉天さんの先輩がやって来て、邪魔をされた。
それで返って気まずい感じになってしまい、結局あの後お互い話しづらくなってしまったのだ。食事の時も、二言三言話しただけだった。
「あいつ・・・」
僕は、完全に高橋のせいにした。
泉天さんも泉天さんだ。あんな誘いなんか断れば良いのに・・・。
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「泉天、やっと会えた」
そして、高級そうなサングラスをサラサラの前髪がサッとなびくような仕草で外し、白いジャケットの胸ポケットに慣れた手つきで納めた。
「髙橋先輩ですか?」
「ああ、髙橋だよ。久しぶり」
高橋は、ニカっと白い歯を見せて微笑む。
「お久しぶりです」
泉天さんも微笑んだ。
「どうして、
「どうしてって。泉天がここでお店をやっているって知ったから来たんだよ。全く、急に何も言わず退社していなくなるんだから、ひどいよ」
「すいません」
「ずっと、探してたんだよ。ここに来たことがある知り合いのSNSを見ていたら、このカフェを紹介していて、泉天が小さくだけど、写っている写真を見つけたんだ」
『Cafe・プリマヴェーラ』は、HPも持たないし、SNSでも配信をしていない。特にネットでアピールを行っていない。そうしなくても地元のお客様がやって来てくれたり、口コミで来るお客様で経営が成り立っているのでその必要がないのだ。元々、泉天さんのご主人が、地元の人の憩いの場になればと思って作ったカフェだから、泉天さんも外向けのアピールは積極的に行っていない。珍しい場所にあるため取材とかも来たりするが、丁重に断っている。地元誌の紹介記事に載ったこがあるだけだ。
「そうでしたか。すいませんでした」
「まあ、いいよ。3年、いや4年ぶりかな。泉天は、相変わらず奇麗だね」
「先輩こそ、相変わらずカッコイイですよ」
「でも、少しやつれてないか?」
「ちょっと、風邪気味で・・」
「大丈夫かい?」
そう言うと、カウンター越しに手を伸ばし、泉天さんの額に右掌を当て、その右掌を自分の額に手を当てる。
「どれ、熱はないか・・」
「も、もう大丈夫なので」
泉天さんが赤面している。
な、なんてことをこいつはするんだ!
それに、泉天さんのこの反応は?
僕は、自然といら立ちの視線をこの色男に向けていた。
そして、やっと高橋は僕の視線に気づいたようだ。
「彼は?」
「〇〇君には、ここで働いて貰っているんです」
「ふーん、そうなんだ。え?○○(※)・・。そう言えば、あいつは、どうしたの?」
高橋は、周囲を確認する。
※「○○」とは、泉天さんさんの夫で、僕と同じ名前だ。
「夫は、3年前に亡くなりました」
「え?そうだったのか・・。知らせてくれれば良かったのに。俺も友人だと思っていたのにな」
「すいません。葬儀は身内だけという夫の遺言でしたから」
「そうだったのか。ここが、あいつが建てたっていうカフェなんだ?」
「はい」
高橋は、カフェの中を見回す。
「ふーん、これが、あいつがやりたかったことだったんだね。そして、あいつが亡くなった今は、泉天がここを引き継いだってことか・・・」
泉天さんは頷いた。
「じゃあ、○○がいなくなった後は、泉天がここを一人やって来たの?大変だったね」
「はい。でも今は、○○君が手伝ってくれているので、楽になってます」
「そう・・。で、君は泉天の何なの?」
高橋が、いきなり直球を投げて来た。
威圧の視線を向ける。
「えーと、何って・・。従業員ですけど・・」
今はそう言うしかないんだよ。
お前が、邪魔したから。
「ふーん、そう」
高橋の態度が急に柔らかくなった。
「ご注文はいかがいたしますか?」
「ああ、じゃあ、コーヒーを貰おうかな」
「はい、かしこまりました」
僕は、丁寧にコーヒーを淹れた。
「お待たせいたしました。当店のブレンドコーヒーです」
高橋は、黙ってコーヒーを飲んだ。
「ふむ、適度な香りと苦みだね。中々美味しいよ」
「ありがとうございます」
どうやら僕への敵意は無くなったようだ。
「泉天。話を戻すけど、俺は
高橋は、名刺を出した。「CHTコマースデザイン㈱」商品・店舗企画の会社のようだ。
「自慢じゃないが、立ち上げてまだ2年だけど、売上もドンドン伸ばしている。会社をまだまだ大きくしていくつもりだよ。泉天、俺は君の営業企画能力を知っている」
そして高橋は、一呼吸置いて行った。
「是非、俺の会社に来てくれないか?」
「え?」
何だ!今日いきなりやって来て!
いきなりその誘いって、急すぎない?
俺は、泉天さんの方をチラッとみると、困惑した表情をしている。
「俺は、チャンスは逃したくないからね。こういう時は即行動することにしている」
「すいません、お断りします」
泉天さんの回答も即答だ!
「えーと、それは・・。何故?」
「私には、このカフェがありますから、他の事をやる気はありません。すいません」
「そうか。それはそうだよな。すぐには無理だよな。今すぐにとは言わないよ。だから考えて欲しいんだ」
「でも・・。あの・・」
ハッキリ断られたのに、この男すごい前向きだな!
僕にはできない。断られたら、すんなり受け入れて落ち込むだろう。羨ましい性格だ。
「そうだ!その前に、今度の日曜日に一緒に食事しよう。つもる話もあるしさ」
「あの、私、日曜日はお店の買い出しとかもあるので・・・」
「買い物なら付き合うからいいだろう。じゃあ、決まりね。代金はここに置いておくから。じゃあ、楽しみにしてるからさ」
高橋は、そう言うと白い歯を見せてニカっと笑った。
「あ、あの・・。先輩!」
高橋は、有無を言わせず出て行った。
「もう相変わらず強引なんだから・・・」
「・・・」
泉天さんは困ったという顔をしていた。
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コツコツ
ドアがノックされた。
僕は泉天さんが、2階に上がって来たことに気づかなかった。
「・・・・」
僕は、出ようか迷っていた。
でも、どう声をかければいいのだろう?
今、泉天さんと話すと嫌なことを言ってしまいそうだ。
「〇〇君、もう寝たかな?明日、髙橋先輩と会うけど、誘いは断るつもり。言いたかったのは、それだけです。おやすみなさい」
そう言残して、去って行った。
これって、
(つづきます)
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